13話 寂しさ ページ19
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スタジアムには中学生の大会とは思えないほどの観客が押し寄せていたが、周りを見回すと今は試合中ほどじゃない。
ハーフタイム中に席を立ち、食事やトイレ休憩をする人が多いのだ。あれだけの人数が移動したのだ、きっと売店前は人で溢れかえっているだろう。
そんな中、海のような青い髪をたなびかせた少女は、物憂げな瞳で整備をしているピッチを見つめていた。
しかし、カツカツという足音が近付いてくると、組んでいた足を崩して頬杖をつく。
「もう、お母さん遅いよ」
「ごめんごめん。トイレ混んでて」
「だから、売店より先にトイレに行ったほうがいいって言ったのに」
座席に取り付けてあるドリンクホルダーにはまっていたコーラを引き抜き、口を付ける少女、雪乃。
ストローからコーラが吸い上げられ、カップからカラカラと氷の音がする。
こう見えて彼女は、十四歳の時にJリーグ直属のユースチームの一員に選ばれ、その年から四年連続で大会MVPを獲得した凄腕プレイヤー。
今はユースでの経験を生かし、なでしこジャパンに入るためWEリーグチームで活躍している。
「しょうがないじゃない、中学の大会でこんなになるなんて思ってなかったんだもの」
買ってきてもらっておいて文句言わないの、と顔を顰めるのはその母、秋江。
夫である龍羅は仕事上どうしても来ることが出来ず、こうして雪乃を連れてもう一人の娘、Aの応援に来たのだった。
「ハーフタイムってどれくらいだったかしら? 十五分はお姉ちゃんよね、中学って……」
「十分! だから、もうそろそろピッチに出てくるはず……あ、ほら!」
歓声が大きくなり、選手たちがベンチから出てきたのが見えると、雪乃は立ち上がってスタジアムの柵に飛びついた。
「Aーー!!」
『!』
その声に気づいた東雲が雪乃のほうを向き、目を見開いて駆け寄ってくる。
『お姉ちゃん! 来てくれてたの?』
「当然でしょ? 妹の大事な試合だもの。前半戦、良かったわね!」
大好きな姉に褒められて、東雲は頬を赤らめた。う、うん……と目を逸らしながら頬を掻く。
「選手の皆さんは、ピッチへ入ってくださーい!」
「あっ、大変。じゃあA、頑張ってね!」
『うん。任せて!』
東雲は微笑んで、雪乃に片手を上げながらピッチへと戻って行く。
その後ろ姿がいつもより大きく見えて、雪乃はどこか寂しさを感じながら微笑んだ。
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杳覇(プロフ) - パティあすさん» わ〜いありがとう💓 読んでいただけて至福の極み……!! 更新停止していた作品とかも少しずつ動かしていきます👍 長い間応援ありがとう!! (2022年1月13日 20時) (レス) id: 72dc0f7804 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - 白目黒口さん» ありがとう〜!! 小生意気で自信家で上から目線、そんなところは両親が優しく姉が生きてて甘やかしてくれたからこそ生まれたものなので、可愛いって言ってもらえてマジで飛び跳ねそうありがとね…!! ふふ、二人の行く末はしろくろにお任せします☺️ (2022年1月13日 20時) (レス) id: 72dc0f7804 (このIDを非表示/違反報告)
パティあす(プロフ) - 完結おめでとう🎉 東雲ちゃんをまた見れて良かったです!素敵な作品をありがとうございました!長い間お疲れ様です。これからも他の作品で楽しませてもらおうと思います!無理せず頑張ってね! (2022年1月13日 19時) (レス) @page45 id: eca4eceaa9 (このIDを非表示/違反報告)
白目黒口(プロフ) - 完結!!おめでとうございますー!!!雷門に入らなかった事によりどこか高嶺の花感のある東雲ちゃんも可愛かったです!こっちの二人もいつか結ばれるといいなぁ (2022年1月13日 19時) (レス) @page45 id: c29c1a0e83 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - 星熊さん» ありがとう……!! 少しの間ですがまたお付き合いくださいm(_ _)m! 更新頑張るねー!! (2021年9月8日 19時) (レス) id: 1cd5a8a31d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杳覇 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Detectivec4/
作成日時:2021年9月7日 11時