【旧バージョン】僕のクレイジーDAYS・２ (ページ46)

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リンゴページ46

人の間をすり抜けて走った僕は、やっとの事でユウミさんの背中が消えた街角へと辿り着いた。

「はぁ、はぁ……」
僕はガクガクとする膝を押さえながら立ち止まった。
訝しい事に、その先の道にユウミさんの姿はなかった。
おかしい。
あんなに僕の目を引いた金髪が、急に見えなくなってしまうはずはないのに……。

僕はヨロヨロともう少し先へ歩いてみた。
「ユウミさんは車道を渡ってしまったのか？」と思って、引き返してもみた。
しばらくそうやって探していたけど、ユウミさんの姿はどこにもない。
ふっつりと姿を消してしまった。

一体、どこへ行ってしまったんだ……。

心臓が破れそうなほどの動悸。
元々運動神経の良くない僕の体力は、もう限界に近かった。
僕は吐き気を堪えて、そこにあった壁に寄りかかった。

さっきまで、ユウミさんは僕の目の前にいたのに……。

『やっぱりダメじゃん。』
振り切ったはずの声がまた聞こえて来る。
『鈍臭いからだよ。マヌケ過ぎて大笑いだよ。』
ほんとにそうだね。
僕はいつもただのマヌケだ。
俯くと、地面にパタパタと雫が落ちた。
汗かと思ったら涙だった。

僕はゆっくりと来た道を戻り始めた。

夢ばかり見るのは止めよう。
そう、どんなに気持ちがあったって、叶わない夢もある。
僕の手が届かない人がいる。

僕は涙を止めようと空を仰いだ。

お母さん、きっと怒っているだろうな。
それに、列車の時間は大丈夫だろうか。
間に合うだろうか……。

その時。
僕の足元にコロコロと何かが転がって来た。
躓きそうになって僕は立ち止まった。
拾い上げてみると、それは真っ赤に色づいた、美味しそうなリンゴだった。

リンゴ？

どうしてこんな所にリンゴが……

僕はリンゴが転がって来た方を見た。
そこには、狭くて暗い路地がぽっかりと口を開けていた。
……ただそれだけの事なのに、僕はそこから目を離せなくなっていた。
ショーウィンドウの中でユウミさんの金髪を認めた時のような心の中の微かなざわめきが、またぶり返して来たのだ。

どうする？と僕は手の中のリンゴに聞いた。
すかさず、『無駄だよ、列車の時間は？間に合わなくなるよ！』と、もう一人の僕が答える。
でも、すぐにその声をリーオックさんの声が打ち消した。
『行かないのか？退屈だな。』
コノハヅキさんの声も聞こえて来た。
『行けば良い。君は若いんだから大丈夫さ。』

僕は深呼吸をし、ぎゅっとリンゴを握りしめて路地へ向かった。