人形は好きじゃない ページ44
そんな事を言いながら、お母さんは
「うわぁ、これはモリーがデザインしてた服にそっくりだわ!嬉しい〜っ!どう、似合う?」
体に服を当てて僕に見せてきた。
何て答えたら良いの?
そんな服は絶対誰にも似合わないと思うよ。
僕は黙っている事を選んだ。
でも結局お母さんは一人でキャッキャとはしゃいで、「買っちゃおう♪お隣のダイナさんに見せびらかしちゃおう♪」と言いながらカゴに突っ込んでいた。
「ほら、アンタも早く自分の服を探して来なさいよ。もうそんなにゆっくりしてられないわよ?」
お母さんが二時間も喋ってたからだよ……。
「ま、別にここで急いで買わなくも良いけどね。ウチに帰ってから、そばのお店に行っても良いし!」
お母さんの大きな声に、ちょうどすぐそばで商品の整理をしていた店員さんが眉をひそめた。
ああ、なんで僕が恥ずかしいって思わなきゃいけないんだろう。
「それより、お土産はどうする?」
「いいよ、そんなの……。」
僕は店員さんの顔を見ないように、さり気なく体の向きを変えながら答えた。
「そんな事ないわ。ご近所付き合いは大事よ。別のお店でお菓子でも買おうかしらね………。
そうそう、服がいらないならアンタは人形を探して来たら?好きなんでしょ?」
「はい?」
僕が聞き返すと、お母さんは笑いながら言った。
「だってアンタはあの下宿で、枕元にフランス人形を置いてたじゃない。違うとは言わせないわよ?
あの後どうしたの?ちゃんと荷物に入れた?私がまた見た時には無くなっていたから、私は触ってないわよ。」
マリー………
つくづくあの人形は気持ち悪いと思う。
「いや、それは僕の人形じゃないから………」
僕はゾッとしながら答えた。
すると、お母さんはニヤニヤした。
「ああ、良いのよ。別に女の子みたいな趣味を持ってたって恥ずかしがる事はないわ。好きなら買ってあげる!」
いや、いらないし!
でも、そう言ったって信じてもらえないんだろうな……
「またまた〜」って言われそうだ。
僕は黙ってお母さんのそばを離れ、店のショーウィンドウに近づいた。
気がつくと太陽は街の向こうに落ちかけている。
空のほとんどが藍色に染まっていた。
ショーウィンドウのすぐ前を歩く人が、白い息を吐いているので、「寒そうだな」と僕はぼんやり思った。
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作者名:木の葉月&シャーロック | 作者ホームページ:https://twitter.com/Sherlock_Rio
作成日時:2020年11月13日 12時