最後のチャンス ページ34
コノハヅキさんはもう部屋に戻ったらしい。
「ところで。」
お母さんは、僕を見返った。
コノハヅキさんに心を折られてからずっと、僕は全てを諦めてベットの上に座り込んでいる。
「なによ、うじうじしてんじゃないわよ。」
「………………。」
僕はダンマリを決め込んだ。
お母さんには、僕がどれくらいショックを受けているかなんて、きっと永遠に分からないんだろうな……。
「シャッキリしなさいよ、もう!少しはシャーロックさんやグリーンリーフさんを見習ったらどうなの?」
「何言ってんの、あの二人は本当は殺し屋だよ?何を見習えって言うの?」って今僕が言ったら、お母さんはどんな顔をするんだろう。
僕は口を開きかけた。
でもその時、隣の部屋……2号室から「ドスン」という大きな音が聞こえて来たので、断念した。
「全くアンタは………。ところで、そこの机の上のお皿はアンタのじゃないわよね?ここのお皿でしょ?」
「………そうだけど。」
ああ、もう嫌だ嫌だ。口を聞くのも億劫だ。
「あっそう。」
お母さんは「じゃ、私が返して来ましょ。」とお皿を手に取って歩き出した。
「えっ、」待ってよ。
まさかお母さんが動くとは思わなかった。
冗談じゃない、ユウミさんと二人きりで話せる最後のチャンスかも知れないのに!
僕は思わず立ち上がった。
「僕が返して来るから!」
僕はお母さんの手からお皿をひったくり、一度も振り返らずに部屋を飛び出した。
誰もいないダイニングルームは、とても静かだった。
僕はそろりそろりと部屋に入り、キッチンへ続く扉の前で立ち止まって耳をすませた。
キッチンからは、ザブザブと水の音やお皿とお皿が軽くぶつかりあっているような音がする。
ユウミさんはきっと、ランチの後片付けをしているのだろう。
ああ……僕がユウミさんと話せるのは、もう今日でおしまいなのか………。
僕はそっと扉に額を当てた。
いつも綺麗なユウミさん。
とても優しいユウミさん。
ユウミさんの微笑みを見ているだけでも本当に幸せだったけど、僕はユウミさんともっと親密な関係になる事を望んでいた。
僕の家があるのは、ここから遠く離れた田舎町。帰ってしまったら、次はいつユウミさんに会えるのだろう。
僕の事なんて、きっとすぐに忘れられてしまうに違いない。
僕は溜め息をつきながら、両手に持ったお皿を上に下に傾けて、背後の窓から差し込む陽の光がチラチラと反射するのを見ていた。
そろそろこのお皿を返さなくては。
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作者名:木の葉月&シャーロック | 作者ホームページ:https://twitter.com/Sherlock_Rio
作成日時:2020年11月13日 12時