折り鶴と、千羽鶴と。 【練紅覇】

第肆拾肆章・「涙なんて、もう」 ページ44

目を少しだけ潤ませていた涙を手の甲で拭う。

涙はもう、出てはこなかった。

ただ、痛いだけ。

じわじわと迫り来る痛みと恐怖が心の中で混ざり合うだけ。


―――不意に、ぱさ、という乾いた音が聞こえる。


その音と同時に、頭の上に何かが乗っている感覚と、持っていた籠が少し重くなった感覚がし、

地面には薄く影ができた。

驚いて、リンドウを探すために下を向いていた顔を上げる。

そこには、儚げな目をした神官さんが立っていた。


「･･････リンドウ、探してたんだろ?」


神官さんはそう言い、籠を指で指す。

そこには先程の音の正体のリンドウが籠の中に入っていた。

「ありがとう･･･ございます、神官さん」

そう言って、少し頭を下げる。

すると、ぱさり、という音がして先程頭に乗ったものが地面に落ちた。

落ちたもの、つまりは先程頭に乗ったものは、シロツメクサの花かんむりだった。

しゃがんで、それを取るとその体勢のまま神官さんを見上げる。


「これ･･･」

「―――プレゼントだから。やる」


神官さんはそう言うと、その花かんむりを私の手から奪い取ると、

再度、そっ、と私の頭の上に乗せた。


「･･･可愛い。似合ってる。―――元気出せ、な?」


神官さんはそう言い、やんわりと笑うと

私の頭を優しく撫でた。

程なくして、私の頭をくしゃくしゃと乱すように撫でると、

撫でるのを止め、私の腕を取り起き上がらしてくれた。


「っつーかさ、たまには休めよ。

　前みたいに仕事、いつもより倍くらい増やしてさぁ･･･自分の体のことも考えろよ」


神官さんは少し強めに、私を注意する。

私は何故か、ふいっと横を向いた。


「―――神官さんには、関係ないですよ。･･･私のことなんて」


その言葉を聞いた神官さんは顔をしかめ、形の整った眉をぴくりと動かす。


「なんだよ･･･Aらしくねーな･･･

　俺はAのこと、心配して言っ――」

「心配しなくていいです!!!!!････っ、もう、放っておいてくださいよ!!!!」


神官さんの言葉に、私の言葉を被せ、神官さんの前から立ち去る。


必死に足を動かし、逃げるように走った。


理由は分からない。

ただ、無性にイライラする。


ただ、ただ、ただ、ただ、ただ、ただ、ただ―――


不意に地面のくぼみに足を取られ、かくんと膝から落ち、転がる。

手に持っていた籠は宙に放り出される。

視界いっぱいに地面が広がり、頭を打ち付けた。

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