【iris】拝啓大嫌いな君へ【紫】

夢か現実か ページ6

「Aーっ！！遅刻するでー？」


そう下から私を呼ぶ声で目が覚める。

大嫌い。現実にまで出てこないでよ。


制服に着替えて、リビングに向かう。

そこからはいつも通りに、ご飯を食べたり、歯を磨いたりして、家を出る。


「A！遅いわ！」


不貞腐れたような表情でこちらを見る初兎。

ちゃんと鞄も持って、自転車に乗っている。


「ほら、はよ乗って！」


幻覚だったら、自転車に乗ったら消えるよね。

そう思って、ゆっくりと自転車に乗ってみる。


「あ、そうそう。サイダー飲む？」

『え、あ...うん。飲む。』


消えない。夢じゃない。

じゃあ初兎が死んだのが夢？


そこから他愛もない話をして、いつものように笑い合った。

そんな時間が凄く幸せで。一生続けばいいのに、なんて思ってた。

でも、現実はそう甘くなかった。


「あ、学校着いたな〜。」

『うん、着いちゃったね。』


ふわっと自転車を降りて、初兎の方を見る。

だけど、そこに初兎の姿はなかった。


『っ...変に期待させないでよ。ばか。』


初兎が確かにいたことを示すように、二人分のサイダーの瓶が太陽に照らされ光っていた。

私はその瓶を拾って、ゴミ箱に捨てる。

あ、ゴミ箱に瓶って捨てちゃダメなんだっけ？まぁいいか。


初兎なんて、最初からいなかった。そう思えたら楽だろうな。

今日も退屈な授業を受けに、教室へと向かう。


「あ、あのっ！如月さん！」


教室に入ると同時に、何故か声を掛けられる。


『...なに。』


正直、初対面の人は苦手。というか、人全体が苦手。

信じたら、裏切られるから。


「き、昨日屋上にいたよね。フェンス越えて...。」

『だから？』


睨み付けるように相手を見る。

私がどうしようが、貴方に関係ないでしょ。放っておいてよ。


「あ、えと...。ごめん、何でもない！」


そう言い逃げるようにタタッと走って教室を出ていく。

その様子を見ていたクラスメイトから視線が集まる。

ほら、目立っちゃったじゃん。


私は昨日と変わらない空を見て、徐々に目を閉じた。

目を閉じれば、さっき起こったかのように鮮明に思い出せるあの日。

あの日、あの公園にいなければ。寄り道せずに帰っていれば。初兎じゃなくて私が死んでいれば。


"何かが変わった？"


まるで、答えの出ない問題を解かされてるみたい。

仕方ない、そんな軽い言葉で終わるような話じゃない。

私は、ずっと、ずっと前の日に、初兎と約束したんだ。

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