「Last」 ページ42
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「あのー、さ」
ヨーヨーの水が風船の壁を滑る。
ぽよぽよと手に当てて、弾ませて。
ヨーヨーで遊びながら絞り出されたその声に、左上をそっと見上げる。
花火が、始まった。
「来年も、さ。
もし予定合ったら、夏祭り、また一緒に来やん?」
花火を見上げたままの先輩。
先輩を見上げたままの私。
綺麗な花弁が呆気なく散っていく。
『私となんかで、いいんですか?』
「ふはっ、なんやねんそれ。
Aと来たいから言ってるんやで?」
花火を見上げる横顔はあまりに綺麗で、輝いていて。
ギターを鳴らすあの表情とは、全くの別物。
また、きゅっと締めつけられた胸。
浴衣の襟をぎゅっと握って、意味も分からず高鳴る鼓動を抑えつけていた。
『なんで、そういうこと、言うんですか』
苦しくなる。嬉しくなる。
なんでか分からないからまた苦しくなる。
苦しいのに、苦しいはずなのに。
先輩の笑顔が頭に浮かんで、また嬉しくなってしまうから。
もうなにがなんだか分からなくて。
それでも一緒にいたいと思うのは、私の我儘かな。
「…好きやから」
息が止まった。
「あーもう…ほんまは言うつもりなかってん。
やけど、言うてもうたからさ、ちゃんと言うな」
「Aのことが、好きや」
なにも聞こえない。
人々の歓声も、花火の音も、なにも。
私に移された視線が、嬉しくて。
微笑む先輩に、また胸が苦しくなって。
『せん、ぱい、』
「ごめんな、びっくりしたやろ?」
『…はい、』
「ゆっくりでええからさ。
もし答えてくれるなら、来年、また夏祭り来ようや」
そう、優しく笑って。
くしゃくしゃ、と撫でられた頭。
きっと、私の顔は真っ赤になっていた。
『はまだ、せんぱい』
「ん?」
『確信が持てるまで、少しだけ…
待ってて、もらえますか』
「…おん。待ってるな」
ハニかんだその笑顔に、ギターを弾くあの真剣さに。
ギャップとやらに惚れこんでしまいそうな、そんな、高校二年の暑い夏。
私は確かに、先輩の笑顔に惹かれていた。
『崇裕くん』
「ん?」
だから、私も同じように伝えるよ。
『私も気づいたから、ちゃんと言うね』
一年前の、あのときのように。
ヨーヨー片手に、花火を見ながら。
『先輩のことが』
手を繋いで。
一年越し、あの笑顔をもう一度。
『崇裕くんが、好きです』
『ヨーヨー釣り』Fin.
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凜憧(プロフ) - まさなさん» ありがとうございます。私も今は徐々に自分を奮い立たせてなんとか行ってます…笑 少しでもお力になれるよう、これからも執筆を続けて参ります。 (2019年12月7日 1時) (レス) id: f3cbf63448 (このIDを非表示/違反報告)
まさな(プロフ) - 凜憧さん» あれ、読んでくれてるんですか!?嬉しいです!海の滴のあとがきで泣きました。私も数ヵ月前まで保健室登校だったので、凛憧さんの気持ちが分かりました。いつまでも応援してます (2019年12月7日 1時) (レス) id: 709458c7d0 (このIDを非表示/違反報告)
凜憧(プロフ) - まさなさん» なんて嬉しいことを言ってくださるんですか…!大ファンだなんて、もう泣きそうなくらい嬉しい言葉です… チラッと作品の名前を拝見させていただいたのですが、ままがむかえにこなかった。という作品、私読んでおります!!笑 お互い頑張りましょう! (2019年12月7日 0時) (レス) id: f3cbf63448 (このIDを非表示/違反報告)
まさな(プロフ) - 『海の滴《紫》』も読んでるんですよ。『夏恋注意報《赤》』も読んでます。そして他の作品もすべて読んでます。私って凛憧さんの大ファンじゃないですか?(唐突)大好きです!頑張って下さい!応援してます(о´∀`о) (2019年12月6日 22時) (レス) id: 709458c7d0 (このIDを非表示/違反報告)
凜憧(プロフ) - ばと担さん» ありがとうございます!わ、キュンキュンしてもらえてよかったです!嬉しいです、頑張らせていただきます! (2019年7月9日 11時) (レス) id: f3cbf63448 (このIDを非表示/違反報告)
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