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ホテルに戻ると、ビアンカが機材をケースに片付けていた。部屋の中にこもるブラックコーヒーと煙草の臭いに「うっ」ときて換気扇のスイッチを入れる。そんなのはいつもふたりでいる奴等にはもう慣れっこで、ジェームズは口笛を吹く。


「その眼鏡、可愛いねー!」
「コンタクトが落ちてさ。もうすぐ入れ直す」
「そのままいればいいのに」


 ビアンカはジェームズの馬鹿っぷりに呆れて、怒る気にもならなかったらしい。それにまだ機材があるうちは仕事中だ。ベッドの上に放り出されたカメラとPCを仕舞う。コードはもう整頓されていた。


 後ろから歩いて来たキャロルに視線が行く。キャロルはコーヒーのマグカップを片手に、前髪をかきあげる。そして深く溜息をつき、


「こんなこと、前の私は平気で出来たのかしら」


 キャロルにまだ子宮があった時。自分から命を産みだせない状態になり、キャロルは裏の世界からごそっと手をひいた。命の存在や価値を知った女身体ならではのことだ。でも、表の仕事だけではやっていけなくて、俺中心にそっち方面の仕事をしている。


「俺なら平気でやってる。罪悪感があるのは、キャロルがイイ奴だからだよ。やっていいことと悪いことの見境がつくんだから」
「貴方は優しいからそんなことが言えるんだわ。仕事がハードだとは言え……私は赤子の運命を狂わせてしまった」
「どの小説も最後はバッドエンドで誰彼殺してしまう殺人作者よりはマシだよ」


 ロバートは照れ臭そうに、鼻をこすりながらそう言った。キャロルはビアンカがコピーしてくれたリストをまとめていた。必要なものと必要じゃないものを瞬時に見分けるキャロルは凄い。


 俺はバッグに入った機材を出入り口まで運ぶのを手伝った。男の腕でも少し重いくらいで、こんなものを商売道具にしているビアンカを尊敬してしまう。


 落ち着いた所で、キャロルが4人の中心にコピー用紙をばさりと置いた。このコピー用紙に今回の依頼で関連する人物がピックアップされている。


「探してた人は、どうやらコニーであっているようね。エバンを売ったことが記されてるわ」
「あと、アリアとゴードンが買っていた宝石を受け取ってる」
「凄いわね。色々記されてるわ」


 キャロルはにこやかにビアンカに微笑む。


「情報屋から買ったんだよ。指疲れちまった」


 すがすがしい笑顔と、くねっと曲がった指先。本当に今日はよく働いてくれた。

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設定タグ:ローファンタジー , 海外・アメリカ , 恋愛、シリアス   
作品ジャンル:純文学, オリジナル作品
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あに(プロフ) - いえいえ。こちらこそ、お忙しいところ申し訳ありません。 (2015年11月1日 10時) (レス) id: b6e044a433 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - あにさん» ありがとうございます。私もコイツらのこと好きです(°▽°)/あに先生の小説の評価、遅くなって申し訳ありません。これから暫く暇になると思うので一気読みしますb (2015年11月1日 8時) (レス) id: 6298628eb9 (このIDを非表示/違反報告)
あに(プロフ) - キャラクターの台詞がとても好きです。そして、映画を見ているような感覚です。文を読むとその場の様子が浮かんできて、感動しました!このサイトではめったにこういう作品と出合うことがめったにないので……。 (2015年11月1日 0時) (レス) id: b6e044a433 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - 阿吽さん» コメントありがとうございます(*´∇`*) 今振り替えると、文の羅列ばかりで配列に工夫がないような……。でも今のバランスなければ凄いという言葉は出ないはず。難しい所ですね。 読んでくださってありがとうございました! (2014年11月5日 23時) (レス) id: 5c4ab849ae (このIDを非表示/違反報告)
阿吽(プロフ) - 凄い…!!あ、イベントに参加登録してくれてありがとうございます!!!! (2014年11月5日 23時) (レス) id: e6f590558d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:レイチェル・ハジェンズ | 作者ホームページ:https://twitter.com/seshiru777777  
作成日時:2014年8月7日 15時

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