第37話 歩き読み ページ38
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工藤邸を出て私はコナン君と二人で帰り道…正確には毛利探偵事務所前までの道を歩いていた。蘭は夕食の買い物があるので、かわりに家まで送ってあげてほしいと言われたのである。
コナン君は新一から借りた例のお土産に熱中していて、今に電柱にぶつかりそうなほど、読み耽っていた。
「コナン君、歩き読みはだめだよ」
「うん…あともうちょっとだけだから…」
この会話はすでに三回目である。幸い人通りの少ない道だからこそ心配もそこそこで済んでいたが、案の定コナン君が電柱にぶつかりそうになり、すれすれのところで避けたのを見て、私は本をサッと取り上げた。
「ここまで! 帰ったらゆっくり読めるから……ね?」
「う…うん…」
些か不服そうに見えなくもない表情になったコナン君に、私はどうしようかと考えた。きっとこのままではいつか私の知らぬ間にコナン君が歩き読みで事故にあってしまうかもしれないのだ。
「あのね」とコナン君の顔を見て私はこう言ってみた。
「二宮金次郎って人は、歩き読みしてたから石になっちゃったんだよ。知ってる?」
「………A姉ちゃん本気で言ってるの?」
「う…ううん……」
彼のジトリとした視線の前にあえなく撃沈した二宮金次郎怪談話は、「それで夜中には学校を動き回ってるんだって」というオチさえ言わせてもらえずに、私の中に留められた。
よくよく考えれば、確かにコナン君にはこの類の話は全く通用しないに違いない。私は恥ずかしさを紛らわすように一つ咳をすると「とにかく」と続けた。
「歩き読みは危険だからね。新一も、下校中に本読んでて頭ぶつけたことがあって…凄く痛そうだったし……」
「新一兄ちゃんが?」
「うん。コナン君の前ではやってなかった? あの人、自分が歩き読みしてることも気づかないくらい本に熱中してること多かったから…」
ふと新一の話になった途端、私は飽きずにまた今日の麻美先輩の話を思い出した。
急に黙ってしまった私が気になったのか、コナン君が「A姉ちゃん?」と顔を伺ってきた。
「……ねえ、コナン君って初恋の人は忘れるものだと思う?」
「え?」とコナン君が目を少し丸くする。
一拍おいて、私は自分の口走った言葉を思い出し、片眉をあげたコナン君の表情を見て口を抑えた。
「ごめん、急に何言ってんだろ! 変だね…」
「…それ…新一兄ちゃんのこと、言ってるの?」
鋭いコナン君の指摘に、今度は私が戸惑う番だった。
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FenGkaz710(プロフ) - 2章楽しみ (2020年6月16日 19時) (レス) id: 760679ded1 (このIDを非表示/違反報告)
琴葵(プロフ) - 面白すぎたのでシリーズ化していると思いました……。面白過ぎます!!!更新応援しています!!!シリーズ化大希望です!!!!! (2019年12月6日 3時) (レス) id: b0ea0349a7 (このIDを非表示/違反報告)
Akiko Tanei(プロフ) - 首を縦に触るのではなく、『振る』ではないですか? (2019年9月8日 11時) (レス) id: acbd1e9f39 (このIDを非表示/違反報告)
? ????? ?(プロフ) - 第1章おつかれさまでした!すごくすごく続き楽しみにしてるので更新早くして欲しいです(>_<) がんばってください!!♪ (2019年8月9日 1時) (レス) id: e7d5c65650 (このIDを非表示/違反報告)
ぽにー(プロフ) - 茅架さん» 作者様本人ではなくすいません。その文書は合っていますよ!"違わず"というのは"たがわず"と読み、間違わずと言う意味です。 (2019年8月1日 1時) (レス) id: 2d86003c92 (このIDを非表示/違反報告)
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