ブリード本丸 "三"

・ ページ46

［命名］





火にくべて、骨を壺に入れて




本丸がよく見える丘の上の桜の樹の下に




墓を作った






青の一は諱が贈られた







柑子(こうじ)と彫られた石を





青の一の眠る土の上に乗せる







桃の一は暫く塞ぎ込んだが




どうにか立ち直った





今は鹿のニや他の子供達の面倒を前のように見てくれている




朝早くに毎日墓参りに行くのが習慣だった








青の一、柑子が亡くなって一ヶ月もしない間に






鹿の一が外に行きたいと言った





医者になりたいのだと






桃の一は夫の手前、何も言えずに送り出した





鹿の一の年齢では六、七年以内に戻って来ないといけなかった






それを超せばゲートを潜れなくなる








「お母さん、絶対帰ってくるから泣かないで」






父が死んでから大人びてしまった鹿の一が




ゲートを通って旅立った






もしかしたら、戻れないかもしれないことは





桃の一にも鹿の一にも言ってある






あちらの世界ではまだ、神子は高く売れる







榊原さんに託したが、




あの人にも全ての悪意は防げないだろう









私達は、ただ無事に帰って来るのを望むばかりだった









鹿の一には命(めい)の名を贈った







青の一には諱が与えられ




青達は数字を一人ずつ上げた






名前を貰ったら、




その数字は他人に譲ることにした






鹿のニも鹿の一になった








命は本丸初の遊子になった





それから、遊子は段々と増えていった







主に出て行きたいと言ったのは





売り買いされたことのない




もしくは記憶のない子達だった







逆に、仲間の死に直面した年長組は





誰一人、現世に行きたいとは言わなかった







本丸は広い




しかし、ここは隔絶された空間であり





地球に比べてばとても狭い世界であった








テレビやラジオは置いていなかったが





本や新聞などは榊原さんから送ってもらっていた







子どもは外を恋しがった






せめてもの幸せは




誰も両親に会いたいという理由で




出て行こうとしなかったことだろう








ただ、どんな理由で外に行きたいと言っても





必ず話したのは私達自身の話だった







それを聞いてやめる子もいれば




それでも行くと言う子もいる







Aは強い意志を持った子を止めない






.

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す