ブリード本丸 "三"

番外編 ページ43

［桃の一の結婚］






「Aちゃん」




大部屋で子どもの世話の手伝いをしていると




隣に桃の一が座った





いつも通り、赤子を抱えて







赤子の泣き声に滅入っていると





妙な幻聴が聞こえてきた









「私、結婚する」





「…………」




赤ん坊をあやす手を止めて




桃の一の顔を見る






「……………誰と」





「ミカンと」




真顔で返答された






ミカンとは大和守安定の息子




青の一のあだ名である




ミカンに目がないことから




みんながそう呼んでいる







いや、ちょっと待て




ここ、法律に従って婚姻届出すの？




え？




ここ、空間隔絶されてますけど？




え？





いや、そもそも君たちいつからそういう関係？




私全く知らないんですがね





え？




………えー




どうすんの？








結婚、そんな事など全く眼中になかった






外に出て結婚するなら分かるが






この中で結婚する奴が出るとは…………









Aが呆然と途方に暮れていると




紺の七がAの肩を軽く叩いた





今年で九歳になる





「結婚制度つくったら？」




「紺の七」




「やっほー、チルちゃん」




チルは紺の七のあだ名である





「これから、結婚したいって言う子たくさん出ると思うよ」







紺の七が提案してくれたのは




結婚したら個室を与えて、式を挙げさせ




そして、子を為すことを許そうというものだった






私はそれを承認した








五日後に榊原さんの協力を仰いで




結婚式という名のパーティーを開いた








新生児や乳幼児は別室で待機させ




参加できる者は全員、参加させた






燭台切を筆頭に美味しい料理を作らせ






桃の一は白無垢、綿帽子を




青の一は羽織り袴、と




二人には正式な格好をさせた







神主役はこんのすけがしてくれた





このこんのすけは榊原さんの特注品である







祝詞を聞き



お祓いをし



誓いの言葉を桃の一と青の一が言い



御神酒を飲んで



三三九度をして






恙無く神前式を終えた







これからは




この本丸の中でも愛が育まれていくのか、と





今日の主役二人を眺めながら考える







神子同士だけではないのかもしれない





神子と刀剣というのだって…………









Aの眼差しだけ




暗かった






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