私、工藤新一はこの街で【名探偵コナン】【成り代わり】

１０.たったの七文字 ページ11

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でも、もう

逃げられない


カサ‥‥と、後ろで微かに草を踏む音がした

徐々に近付いてくるソレに、冷や汗が背を伝う

喉がカラカラになる


だめだ。じっとしろ、うごくな


カランカランと、鉄パイプを引きずっているような音がする

うごくな。此処で、殴られなくちゃいけないんだから


カラン、カラン



「探偵ごっこは‥‥」


あ、だめだ。


もうむりだ


「そこまでだ！」


ジンが吐いたそのセリフとほぼ同時に、私は振り向くと思い切り足を振り上げた


鉄パイプが軌道を変え、私の横を空振る


やっちゃった、やっちゃった


どうしよう。やっちゃった


冷や汗を浮かべながら、私は拳を腰辺りで構える


目の前の黒ずくめの男の、その、人を人と思っていないような暗い目が見開かれた


ジンが声をあげた


角の向こうで、社長サンが逃げていく足音と、ウォッカの慌てた様な声が聞こえた


私の目は捉えていた。ジンの口が動き、その七文字を。そのたった七文字を溢す所をただただ見ていた



く ど う し ん い ち



その瞬間、私の脳みその奥の奥で、何か切れた音がした。



もしかしたら、噛み合った音かもしれなかった



＿＿＿
＿＿





私の頭には色々な事が巡っていた。走馬灯と呼ぶには余りに断絶的で、危なげな灯だった






蘭、園子、工藤新一、工藤夫妻、父さん、母さん、ホームズの本、阿笠博士、工藤新一、組織、ハワイに行った事、灰原哀、宮野志保、宮野明美、ファンレター、怒った顔の蘭、工藤新一、貰ったワンピース、工藤新一、鏡に写った私、カメラのフラッシュ、マスコミ、主人公、工藤新一、工藤新一





蘭。
父さん、母さん。
工藤新一。




工藤新一(主人公)。



＿＿＿
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音はぜんぶ遠かった。でも、振り上げられた鉄パイプは地面にうまっていて、きっと相当な音をたてたに違いなかった


気づいたら、ジンに向かって蹴りをいれようとしている足があった

受け身からの反撃に出ようとしているジンに気が付き咄嗟に身をひく

よく見える。自分が不利なこの状況


ひしゃげた鉄パイプは酷く不恰好で、それが私に原作との相違をまじまじと見せつけていた

私は唇をなぞる。空気に漏れて、カスカスな音を出したその七文字を呟いた


私がずっとずっとすがっていた七文字であり、それを呟いた瞬間血の気がひく思いがした。

やっぱり何か切れる音がした。切れた音で間違いなかった。十何年の私のすがっていた物を自ら切った音だった

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