解体できない代物 【松田陣平】

CASE:43 お守りのサングラス ページ45

(ホントはまだ１人にしないでほしい。でもトイレは仕方ないし、本来なら煙草だって吸いたいはずだ。…ここで『１人にしないで』とは言えない。)

A「もちろんです。むしろ、もっと早く言って下さればよかったのに……。ついでに、よかったら一服もしてきて下さい。」

松田「ばーか、病人が気ぃ遣ってんじゃねぇよ。それに…そんな寂しそうな顔してよく言うぜ。すぐ行ってくっから、"コレ"持って待っとけよ。」

そう言って松田先輩は、自身のスーツの胸ポケットから愛用品のサングラスを取り出して、私の右手に握らせた。

松田「"人質"ならぬ"物質(ものじち)"だ。絶対戻ってくるから心配すんな。」

明るめにそう言い残して、彼は席を外した。

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・

――コンコン。

A「はい。」

萩原「Aちゃん、俺だよ。ごめんね、遅くなって。」

A「萩原先輩、お疲れ様です。それから、急に倒れてご心配とご迷惑をおかけしました。ごめんなさい。」

萩原「結果的に今元気そうだから良いんだけど、ホントに急だったからビックリしたよ。ごめんね、もしかして俺が今まで気づかなかっただけで、こんなこと…実は何回かあったりしたのかな？……あと、陣平ちゃんは？サングラス、Aちゃんが握りしめてるところをみると帰ってないのは分かったけど。」

A「…はい、実は２回ぐらいは今までもありました。でも本当に重症の患者さんみたいに、特定の出来事で誘発するわけでもないみたいで。何が引き金になるのか掴めていないので、私も困ってるんですよ。《PTSD》に近いですかね、症状的には。……松田先輩なら、お手洗いですよ。一服までしてくるかどうかまでは分からないですけど。」

萩原「…そっか。《PTSD》か…って言っても詳しくは知らないけど。トラウマの出来事から情緒不安定になっちゃうやつだっけ？症状も出たり出なかったりムラがあるのか。それじゃ分からないのも無理ないね。…陣平ちゃん、Aちゃん１人にしてトイレ行ったの？冷たいなぁ。一服までしてきたら説教だけどね。」

A「厳密にはちょっと違いますけど、ニュアンスは合ってますかね。……もう！またそうやって私を揶揄(からか)って！冷たくないですし、やめてくださいよ？説教なんて。松田先輩、さっきまでずっと一緒にいてくれたんですから。…それに、『そんなに心配なら俺のサングラス握って待ってろ』って置いてったの本人ですし。」

萩原「はは。冗談だよ、もちろんね。」

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