揺れ動くは覆る翠眼 ページ31
※ATTENTION※
このお話にはB L要素があります。苦手な方は飛ばしてください。
淡い桃色の時期はとうに儚く終わり、力強く芽吹いた葉は青々と生い茂り、暖かな日差しはだんだんと強くなってきた。
とある大学近くの、はじめの細道の突き当たりを左に、次の路地を右に、そのすぐ脇の道を右に行くと、小さな店がある。
俺は扉の前で深呼吸した。初めて入る場所に緊張し、控えめに中を覗いた。
ここは、知る人ぞ知る名店であり、昼間は落ち着いた雰囲気の喫茶店だが、夜にはお洒落なBARとなる。
その店の名前は『Jade』という。日本語で翡翠という意味を持つだけあり、店先にはよく手入れされた植物が置いてある他、細かな装飾やカーテンは薄いグリーンである。
＿カランカラン
扉を開けると、扉についた小さな鐘が軽快な音を立てた。
「いらっしゃいませ」
思ったよりも若い店主に出迎えられて少し驚いた。
俺の他に客はいないらしく、店内にかかるジャズが良い雰囲気を作り出している。
俺はカウンターに座ると、とりあえずアイスコーヒーを注文した。
「君も噂を聞いてやって来たのかな？」
「まぁ、はい」
注文したアイスコーヒーを置くと同時に店主に声をかけられた。
どこか煮え切らない返事をした俺に、店主はクスリと笑った。
そう、この店には訪れる者の願いを叶えてくれるという噂があった。
半信半疑ではあったが、友人に勧められた俺は、一縷の希望を持ってここに来た。
「といっても学校で言う相談室みたいなものだけどね」
店主は笑って言い、俺は少し肩の力を抜いた。
優しそうな笑顔に一気に緊張が解れた気がする。
「じゃあ、まずは名前と年齢、誕生日を教えてもらっても良いかな？」
そう言って店主は俺の向かいに立った。
なんだか占いみたいだな…。
その優しい目に促されて、俺は名乗った。
「深谷翠、19歳です。誕生日は6月20日…」
「じゃあもうすぐだね。あぁ、僕は福地陽向、誕生日は5月27日で歳は29歳だよ。」
俺に続いて店主も名乗る。
5月27日というとこの前だな。というかそれよりこの人…
「若い…」
「あはは、よく言われる」
声に出てたみたいだ。恥ずかしい。
恥ずかしさに赤くなった頬を誤魔化すようにアイスコーヒーを飲んだ。
「それで、君の願いは？」
「俺の願いは…」
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作者名：黒洞揚羽 x他6人 | 作成日時：2020年11月29日 1時
