シンデレラ・ディレクション《ars/k.n/0617》 (ページ1)

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Prologue 零時前の出会いページ1

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門限零時って、一緒にホテルも行けないのかよ。

そう言ったのは元カレで、私はそのまま別れを告げた。

零時までには家に帰る。

兄と約束した門限は私にとって大事なものだ。

兄と私の決まり事、それごと愛してもらえなければそれはもう私ではない。

深夜零時の鐘が鳴るまで、という期限をシンデレラはどう考えていたんだろうか。

終わりの分かっている煌びやかな夢は灰かぶりの現実をどれほど忘れさせるだろう。

「大野、寝るなよ」

「わかってますよ」

そういう私は現実の真っただ中である。

小さなため息と一緒にあくびを噛み殺す。

櫻井さんは苦笑いをしながら私の頭をはたいた。

「ほら、あとちょっと頑張れ」

「ふぁい…」

立ち上がってどこかへ歩いていく上司の背中を目で見送って、結局次のあくびを両手で覆い隠しながら私は返事をした。

日本某所のゲーム会社。

私はデスクのパソコンに浮かんだ次回イベントの最終チェック作業中である。

「松本、UIの方は？」

「明日には出そろいます」

「そっか。…ほらコーヒー」

帰ってきた上司、櫻井さんは私と松本くんのデスクに黒々としたコーヒーの入ったコップを置いた。

わざわざこれを淹れに行ってくれたようだ。

「ありがとうございます」

「いただきます」

早速コーヒーに手を付ける。

目は画面に浮かんだ文字やら画像やらなんやらを追いかける。

「獲得条件の変更なんてこのタイミングで言います？」

私と櫻井さんを見ながら松本くんがため息を吐く。

「しょうがないだろ、プロデューサーの指示なんだから」

「櫻井ラインに口出さないでほしいですよね」

「いや、一応俺のラインじゃなくてあの人のラインだから」

私の言葉に苦笑いをした櫻井さんは手に持った開発用端末を掲げる。

「とりあえず、明日無事に終わったら飲みに行こう」

「行きます行きます」

「はあ」

私の言葉と松本くんのため息。

それに櫻井さんの笑う声が重なっていた。

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