35−花園 ページ35
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暫く差しさわりの無い話をしながら、彼女は隣に並ぶ王子をひっそりと見つめた。
顔の傷に、白銀の髪。
彼とそっくりな話し方。ぎこちない歩み。
…そんな筈ないのに。記憶の中の彼と目の前の高貴なお方を重ねてしまう。
「……まさかね」
「…どうした?」
「あ、いえ…なんだか王子様が、似ている気がして」
「誰と?」
「……大切な方が居たの」
ぴくんと反応する王子。無意識に足を止めていた。
「……大切な?」僅かに震える声が彼女に問いかける。
「森で、出会ったの…誰よりも優しくて綺麗だった。
こんな私を、愛してると言ってくれた、最愛の方」
「……」
黙りこくった王子をそっと見上げると、何とも形容しがたい目でこちらを見つめていた。
ひたむきな情熱と愛を含んだような瞳は森に棲んでいた闇の中の獣みたいに底からこみ上げる激情みたいな何かを堪えているよう。
「……こっちだ。連れていきてェ場所がある」
王子様、彼の名を呼ぶ前に、その燃え上がる瞳は逸らされる。
代わりに、転ばないように彼女の背中に腰を添えてもう一度歩き出した。
背中の、触れそうで触れないその手を感じて体温が上がる。
「そろそろ大広間に戻っては? 王子様が主役なのに」
「それよりもう少し外に居よう」
「どうして?」
「戻れば花嫁候補を押し付けられる。10年も森で過ごしちゃ
「愛する人を選ぶ権利があるわ」
「……ああ、その通りだ」
王子は、よく笑う。彼女の何気ない言葉でも。
彼女はただ純粋に、王子様はよく笑う朗らかなお方だなと思った。
その真意を知らないから。
次第に警備の騎士すらも居ない生垣にするりと入り込む二人。
王子は迷う事なく進んでいき、隠すように立てつけられた保護色の扉に手をかける。
「お前にだけ、特別だァ。……俺の小さい頃ずっと遊んでた秘密基地だ」
「……わぁ…!」
扉を開けると、そこには一面の花々が広がっていた。
目の覚めるような赤いバラに、艶やかで美しい豊かな色合いのチューリップ。
暖かい気温の植物園だからこそできる、春夏秋冬を選ばない花畑。
ガラス張りの天井から、冬の夜更けの月が豪華な星空に彩られて夜気を優しく凍らせている。
「綺麗…」
「気に入ったか?」
「勿論!」
「良かった」
_すると、植物園のどこからか、小鳥のさえずる音。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時