28ー真夜中 ページ28
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「え、あの…」
「さぁみんな、早く持ち場について!」
「ねえ、待って!」
「ん? どうした?」
慌てて炭治郎を呼び止めるA。
その服はみすぼらしく、ぼろぼろだ。
そして先程彼になけなしの布を破ったせいで見るも無残な形に。
「こんなドレスじゃ行けないわ」しょんぼりとよれたドレスの裾をつまんでAは炭治郎を見上げた。
「ドレス? ……あーっ! すまない、すっかり忘れていた!」
「……お願い炭治郎さん、直してくれない?」
「直す? 新しいものに変身させるといいだろう?」
「ううん、これがいいの。母の形見だから」
「……そうか! 少し形を変えるのはだめか?」
「平気! ありがとう」
健気な言葉で困ったように杖をぐるぐる回して思案する。
_困った。俺は変身魔法が得意なんだけどな…。
「ブルーは嫌いか?」そう聞けば、Aはふるふる横に振る。
安心して炭治郎は杖をゆっくり振った。
彼女の周りを魔法の蝶が舞い、ドレスを形作る。
そして金粉が彼女を包み込み_。
ブワッ_
辺り一面を光らせる湖畔の様に美しいシンデレラブルーのドレスに変わった。
容姿こそ美しく、みすぼらしいドレスでも姉達が嫉妬してしまう程愛らしい見た目ではあったのだが……まさしく名花に美粧。
自身で施した筈の魔法使いの青年でさえも、喉を鳴らすのも忘れて数秒身惚れていた。
「すごく綺麗…! ありがとう魔法使いさん!」
「…い、いや! いいんだ! 今日は魔法の調子が良いみたいで何よりだ!」
魔法使いはドギマギしながら彼女の手を取って馬車へと誘導する。
そこまで魔法に気を配った思いはないのに、近づいた彼女から良い匂いがしてますます炭次郎はカチコチする。
少し顔を火照らせた彼が馬車に手をついて、馬車の中に座った彼女を見届けると、思い出した様に「あ!」と目を見開いた。
「A、良く聞くんだ。魔法は長く続かないんだ
12時の鐘が鳴り終わると魔法は解けて元に戻ってしまう」
「真夜中ね。時間は十分あるわ」
「…さぁ行って」
「本当にありがとう」
名残惜しいが魔法使いの彼とはここでさよならだ。
炭治郎は彼女の額にキスを落とすと、馬車に杖を振るった。
ネズミの馬は真夜中の王都に向けて発車する。
「楽しみだわ…舞踏会」
彼女の呟きは夜に溶けて消える。
馬車が見えなくなるまで見送っていた魔法使いも、柔らかな笑みを残して闇へと消えた。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時