あなたはオオカミ 【不死川実弥】

26−魔法使い ページ26

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どこからか聞こえたしゃがれた声。
しかし泣いてる彼女はその声に気が付かない。

側で見守っていた動物達は心配そうに彼女の周りに集まってキョロキョロと辺りを警戒した。


「……お嬢さん、ちょっと」もう一度大きめに聞こえた声の直後に、咳払いが一つ、二つ。
その咳き込みに、ようやくびくりとAは井戸の縁から顔をあげたのだった。





「……誰…？ 誰か居るの？」

「ここだよ」

「……っわ、え…？」





存外低い声が間近で聞こえた。
そしてその声の正体はすぐに見つかる。

深くフードを被り樽を椅子代わりに座る小柄な姿。

恐る恐る顔を覗くと皺皺の老人と目が合った。





「散歩中に怪我をしてしまってね
包帯か何かあればいいんだけど」

「ほ…包帯はないけれど…」





ぐすっと鼻を啜って少し思案すると、容赦なくAは自分の着用していたドレスの布を破った。

そして老人に渡せば、フっと笑って老人は立ち上がる。





「大切な母の形見を渡して良かったのか？」

「だって怪我をしてるんでしょう？ お母様もきっと貴方を助けられて嬉しいわ
……え、待って。私、貴方に形見を、」





話したかしら。
それを言う前に腰を深く曲げていた筈の老人は右手の杖を高々と空にかざしていた。

足が悪いのではないのか。
その異様な光景に彼女は目を見張る。





「どんな大切な形見よりも、大事なのは勇気と優しさだからね」

「……え…？」

「さあA、時間がない。急ごう」





その言葉を合図に、老人は杖を勢いよく空へと投げたのだ。
びっくりして空に投げ出された杖を目で追いかけるA。

それが宙で一回転してキラッキラと輝きを見せる。


そして老人の手に杖がもう一度落ちた時……。
その姿はまるで違っていたのだ。





「……っうそ……」

「そんなに呆けて一体どうしたんだ？ さ、行こう」

「貴方……だって、ご老人だったのに…！」

「これが本来の姿なんだよ。君を試したんだ。…必要なかったけどね」





ローブの姿から一転、白のマントに身を包み、同じ色のとんがり帽子を被った青年がそこに立っていた。
柔らかそうに空気を含んではねる赤髪に、左の額には傷が目立つ。
そして同じく優しげな瞳は戸惑うAを覗いた。





「急に俺の姿が変わってびっくりしてる？ 俺は何者かって？
俺は君を小さい時からずっと見ていた魔法使いだ」

「魔法使い……？」

「ああ！ 炭治郎と呼んでくれ」





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