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25−もう何も ページ25

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「…A、そのドレスはどうしたの?」

「母のお下がりなんです。お金はかけてないわ」

「使用人は選ばれないわ」

「いいえ、王子様に選ばれるなんて大層な事、思ってません」





屋根裏から駆け下りたからか、少し肩を上下させて期待に目を輝かせるA。
ピンクのドレスは姉達と比べると貧相でみすぼらしく、質素だ。

それでも彼女は、憧れていたお城に入れるという期待だけで胸がいっぱいだった。

しかし依然変わらず彼女のその貧相なドレスを見て目を細める継母。





「舞踏会には行かせないわ。ボロを着た娘を連れて行くのは失礼よ」

「……ボロ? 母のよ」

「_……失礼だけどお母様の趣味を疑うわ
時代遅れで粗末なドレス…」





継母が彼女にゆっくりと近づいてそのレースの手袋した指を、Aのドレスの肩口へと伸ばす。

嫌な予感がする。






「今にもほつれそう」





ビリッ


ぎゅっと強く引っ張られたかと思うと、突如彼女の肩の布が悲鳴をあげたのだ。
「肩が裂けたわ」しかし継母は心底愉快そうに笑った。

そしてそれを面白がって二人の姉も参戦する。

いや、やめて。そんなAの悲痛な叫びも虚しく、手が止まった頃には見るも無残に愛らしいピンクのドレスはぼろぼろになっていた。





「ーー…っあんまりだわ……」

「娘はお前がいると迷惑なの。ボロ着の娘と一緒じゃ恥さらしよ
どうせお前は一生薄汚い使用人なんだから」





継母の心ない言葉は彼女の胸を深くえぐる。
まるで汚れを処理しているかのような目で、継母は彼女を一瞥すると、踵を返して再び馬車の方へ歩みを進めた。





「よくお聞き。舞踏会に行くのは許さないわ」

「……ッ…」





彼女らの笑い声が蹄の音と共に遠ざかって行く。
それが完全に聞こえなくなる前に、我慢しきれなくなったAは気づけば裏庭へと駆け出していた。





「許してお父様、お母様」





井戸の縁へ駆け寄りへたり込む彼女。
裂けたドレスが痛々しい。

あれ程苦しい思いを我慢していた彼女が、今夜はじめて泣いたのだ。





「勇気を持つと誓ったけれどもう無理
もう何も信じられない」





どれだけこき使われようが、自分を侮辱されようが、平気だった。
両親達の幸せがここに残っている。それだけで幸せだった。

それがどうだ。…母の形見のドレスは彼らによって壊されてしまった。

Aは何もかもに、この瞬間絶望したのだ……。





「__お嬢さん」





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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時

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