酒は血の一部 ページ30
「鴻鳥先生は...
悔しかったこととか...ありますか。」
今日は未受診妊婦が飛び込み出産をした。
下屋はその日のサシ飲みで、僕にそんな事を聞いてきた。
「悔しいこと...まぁ、あるよ。いっぱい。」
「そうですよね...」
いつも一人寂しく焼肉に行くという下屋。
今日は珍しくサシ飲みに誘ってみた。
案の定下屋は二つ返事で着いてきた。
しかし酒が入るとぐんぐんとテンションが下がっていく下屋。もっと明るくうるさく話すと思っていたのに。
__と思った矢先、下屋は思い出したかのように喋り出した。
「鴻鳥先生、そういえばAさんはどうなったんですか?」
「あぁ...鬼嶋...ね。
最近はちょくちょく連絡も来るし、お姉さんが早剥起こしたって言ってて...」
「えっ?!“あの島”で早剥ですか?!」
「...手術できたらしいよ。
血液製剤を集めたとか言って。」
「えぇすごーい...」
下屋はハイボールをお代わりすると、いつものように飲み出しては喋り、飲み出しては喋りを繰り返していた。
__どうやらいつもの調子に戻ったみたいだ。
「でも大変ですよねー。
最近は島で出産したいって人が増えたらしくて。」
「...鬼嶋の評判がいいからじゃないか?」
普通隠久ノ島は
しかしここ最近は鬼嶋の名前が有名になって、場合によっては
しかし鬼嶋だって慎重派だ。
無闇矢鱈に腹を切るような医者じゃないし、
少しでもリスクを見つけたら本島に送っているだろう。
「でも...初産だったら島じゃ産めないし手術もできないって...
それじゃ助産院となんら変わんないですよね〜
隠久ノ島に産科って必要なのかなぁ...」
氷の音がカラン、と響く。
「いるよ。絶対に。」
_____________________________
「焼肉じゃなくて悪かったな」
「いやぁー、あそこお酒の種類多いし、一回行ってみたかったんですよ〜
ありがとうございます鴻鳥先生、」
「いやぁまさか二人が鉄板焼き屋で密会してるとはね〜。ダメだよそういうときは呼んでくれなきゃ。」
___なぜあなたがいるんですか____
そう口に出る前に表情が出たのか、小松さんはニヤッと笑って後頭部を叩くと、“当直変わった”と一言。
「...じゃあ、もう一杯行きますか...」
「「やったぁ!鴻鳥先生のおごり〜!」」
「
67人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時