検索窓
今日:11 hit、昨日:2 hit、合計:59,696 hit

酒は血の一部 ページ30

「鴻鳥先生は...
悔しかったこととか...ありますか。」


今日は未受診妊婦が飛び込み出産をした。
下屋はその日のサシ飲みで、僕にそんな事を聞いてきた。


「悔しいこと...まぁ、あるよ。いっぱい。」

「そうですよね...」


いつも一人寂しく焼肉に行くという下屋。
今日は珍しくサシ飲みに誘ってみた。

案の定下屋は二つ返事で着いてきた。

しかし酒が入るとぐんぐんとテンションが下がっていく下屋。もっと明るくうるさく話すと思っていたのに。


__と思った矢先、下屋は思い出したかのように喋り出した。

「鴻鳥先生、そういえばAさんはどうなったんですか?」

「あぁ...鬼嶋...ね。
最近はちょくちょく連絡も来るし、お姉さんが早剥起こしたって言ってて...」

「えっ?!“あの島”で早剥ですか?!」

「...手術できたらしいよ。
血液製剤を集めたとか言って。」

「えぇすごーい...」


下屋はハイボールをお代わりすると、いつものように飲み出しては喋り、飲み出しては喋りを繰り返していた。

__どうやらいつもの調子に戻ったみたいだ。


「でも大変ですよねー。
最近は島で出産したいって人が増えたらしくて。」

「...鬼嶋の評判がいいからじゃないか?」


普通隠久ノ島は初産婦(プリミ)やハイリスク妊婦は分娩できない。

しかしここ最近は鬼嶋の名前が有名になって、場合によっては初産婦(プリミ)でも請負い始めたらしい。

しかし鬼嶋だって慎重派だ。
無闇矢鱈に腹を切るような医者じゃないし、
少しでもリスクを見つけたら本島に送っているだろう。

「でも...初産だったら島じゃ産めないし手術もできないって...

それじゃ助産院となんら変わんないですよね〜
隠久ノ島に産科って必要なのかなぁ...」



氷の音がカラン、と響く。



「いるよ。絶対に。」



_____________________________


「焼肉じゃなくて悪かったな」

「いやぁー、あそこお酒の種類多いし、一回行ってみたかったんですよ〜
ありがとうございます鴻鳥先生、」

「いやぁまさか二人が鉄板焼き屋で密会してるとはね〜。ダメだよそういうときは呼んでくれなきゃ。」


___なぜあなたがいるんですか____



そう口に出る前に表情が出たのか、小松さんはニヤッと笑って後頭部を叩くと、“当直変わった”と一言。


「...じゃあ、もう一杯行きますか...」

「「やったぁ!鴻鳥先生のおごり〜!」」

(たか)らないでくださいよ...」

酒は涙の一部→←慶荘



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (25 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
67人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。