緊急カイザー ページ26
超緊急カイザーが行われるのは決定事項。
だがしかし、数秒後には予期せぬことが起ころうとしていた。
「あいつにメスを持たせるつもりだ。」
ストレッチャーが手術室に到着した時荻島は言った。
その上Aに術着を着させるよう言うと、助産師や別の産科医からは大きなブーイングが飛ぶ。
「彼女聞こえてないんですよ？！」
「あいつの言うことに従え。サポートに徹しろ。
こっちが下手に口出したところで伝わらない。あいつは馬鹿じゃない。聞こえてなくてもやれる。
それに胎児は３９週を迎えている。
「でも...！危険すぎます！！」
「患者が選んだんだ。」
Aにとってたった一人の家族であるこの患者が、救急車の中で必死に言っていた事を荻島はしっかり聞いていた。
“...先生、Aに...メスを持たせてッ、”
強く荻島の腕を掴んだAの姉は、弱々しいながらもそう言った。
「あいつが決める事だ。」
「...私やります。」
荻島がフッと息をついた瞬間、手術室に入ってきたのは、術着を着たAだった。
聞こえないはずの彼女は“私が決めてもいいんですよね”と言わんばかりに荻島を見た。
横に手話のできるソーシャルワーカーの姿はない。
手話通訳なしで挑もうというのだ。
「...いつもの感じでお願いします先生。」
頷いた荻島を見たAはぐるっと全員の顔を見回し、勢いよく息を吸った。
「患者は妊娠３９週の三十代女性、腹部に激しい痛みと出血を訴え、バイタル低下、ショックが伺えます。
出血が２０００を過ぎたら即輸血をお願いします。エコーなしですが、早剥だと判断しています。
アレストになりそうだと判断したらその時点でアドレナリンお願いします。
娩出後、大量出血の危険が予想されます。
その場合はまずB’lynch、圧迫法でいきます。
...では、始めます。」
患者の足側にいる看護助手は、Aの声に反応し、すぐにメスを渡した。
メスを消毒後の皮膚にあてがい、横一文字に入れたA。傷跡があまり大きくならない最善の方法で挑もうというのだ。
まだ余裕がある。
そう踏んだ荻島は開腹器を入れるように
助手に伝えると、伸ばされたAの手に鑷子を渡した。
「筋膜切ります。
...胎児見えました。」
「早い...」
Aは落ち着いていた。
急いでいる節がなく、あくまでも自分の腕を信じて行なっているような術を行なっている。
「赤ちゃんでます、」
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作者名：長官 | 作成日時：2020年5月3日 17時
