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トラウマ ページ21

もともと私を身篭ったタイミングで離婚していた母は、女手一つで姉を育て、そんな中、徐々に大きくなるお腹を抱えて暮らしていたという。

お母さんは三十年以上も前、島も病院も人が多かった頃に妊娠24週で心停止を起こし、死戦期帝王切開を経てもなお死亡した。



即ち私は死戦期帝王切開で助けられたのだ。


「...記憶にない筈なのにフラッシュバックするんですよ。見たこともないお母さんの苦しむ姿が。」


点滴が終わってぼーっと話し始めた私。
そんな私の話を、荻島先生はコーヒーを飲みながら聞いてくれていた。


「間違ってるんじゃないかな。ここでお腹開いたら赤ちゃんは死んでしまうんじゃないかな。って怖くて怖くて。」」

「“人二人の命救ったんだ”」

「...ッ」

「俺は少なくとも鬼嶋の行動を称賛する。
間違っちゃいない。もっと胸張ったらどうだ。」

「...ありがとうございます。」


私はそのおかげで24周で生まれた超未熟児だった。

耳は形成不全でほとんど聞こえず、小学校高学年の時に初めて音を知った。

必死のリハビリ中、病院でお医者さんの声を聞いて、赤ん坊の泣き声を聞いて、初めて医者になりたいと思った。

そして私を助けてくれた様な産科の先生になりたいと願う様になったのはその二年後だった。

そして母が生まれ育ち、そして私が生まれた地で医者になるという目標を掲げるようになった。

____________


「そーいえばあの時先生、私の耳見ようとしましたよね、」

先生は固まると、ゆっくり頷いた。


そっと髪の毛を持ち上げる。
人よりひとまわり小さく、少し丸まった耳。

小さい頃からコンプレックスで、形成手術も受けられない孤児だった私は餃子耳等といじられ、塞ぎ込む節があった。

実を言えば今だって知られたくない。

頭の中にコイルが入っていて、後頭部に磁石がついていることなんて。


鴻鳥は時々私の聴力を心配する節があった。
いつか知られる日がくるのはわかっていたが、
自ら髪をめくって見せている中、何故か恐怖で心臓が煩かった。


「形成不全です。幸い蝸牛が生きていたので今はしっかり聞こえてます。」

高校生までは喋る時に手話をするのが癖でなかなか治らなかった。

「鴻鳥に聞きましたか、」

「ごめん」

「なんで謝るんですか。別に耳くらいで何か変わるわけじゃないですよね。」

「...そうか」

「アラサーにもなってクヨクヨしたくないですし。」

「お前もうアラサーか。」

「え、今更ですか?」

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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時

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