物件ない ページ16
すっかりエアコンも直って、涼しくなった医局。
ポツポツと医者や医局員がいて、少しだけザワザワしている。
そんな中叶先生はソファに正座する私の前で椅子にあぐらをかいて話を聞いてくれている。
...というのも、内科の叶先生は私が入ってきた当初から良く声をかけてくれていて仲が良く、なんでも話せる仲なのだ。
今回は私のルーツを聞かれたので仕方なく話した。
どこで生まれたか、どこで育ったか、どこの大学に行ったか、ペルソナでなにを学んだか。
そして何故今私は病院に住み込んで働いているのか。
「下の階が燃えたのに、“故意じゃないから”って慰謝料貰えないんですよ。
ススだらけで家真っ黒になっちゃったのに。」
「えぇッ、貰えないの？！」
「はぁい。」
私はいつまで住み込みで働けば良いのでしょうか。
時刻は夕飯時。
叶先生は遅番だというので愛妻弁当を持ってデスクに着く。
一方で非番な筈の私は片手にペンを持ってもう片方の手にはエナジーゼリー。
チューチューと平和的に吸いながら紹介状を完成させた。
「そんなんばっか食べてるからガリガリになっちゃうわけだよ。」
車の鍵をくるくると指で回しながら、中身のなくなったエナジーゼリーの容器を咥える。
本島からこっちにくる時には下見で訪れた際に気に入った可愛い色のアパートに入居できるって信じてた。
一年経ってまさか火事を起こされ、まだ家に帰れないというかわいそうなことになるとは誰が考えたことか。
＿＿やはり誰かにお世話になるしか方法はないのか...
そんなことを考えてまたソファに戻る。
ピン、と足を伸ばして仰向けになり、天井のシミの数を数えてみる。
しかし数秒後、コレでもかというほどけたたましい足音が聞こえ、気になった私は上体を起こす。
「ハァッ...ハァッ...
鬼嶋先生か荻島先生はいらっしゃいますか？！」
いきなり大声を出したのは巡回をしていた看護師だった。
私は驚いて肩を震わせる。
「どうしましたか？」
「２０１の林さんが心停止です！！」
そう言われた途端、放送が流れ出した。
《“全館にいらっしゃる先生方に連絡します。
至急二階一号室にお集まりください。
至急二階一号室にお集まりください。
繰り返します。
全館にいらっしゃる先生方に連絡します。
至急二階一号室にお集まりください。
至急二階一号室にお集まりください。
コードブルーを宣言します。”》
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作者名：長官 | 作成日時：2020年5月3日 17時
