魔法をかける合図 ページ35
「ヌナ!」
糸が切れたように気を失った彼女の体を、地面に叩きつけられる前に慌てて抱きとめる。目元のクマはひどいし、抱き寄せた腰が細くてゾッとした。
周りがざわざわする。チェヨンヌナが僕にAヌナを任せてくれと言ってきたけれど、僕はどうしても彼女の体を引き渡したくなかった。
「過労だろうから、医務室まで私たちが運ぶよ、ジョングク」
「僕が運びます。すぐに戻ってくるので、僕のメイクだけ後に回してもらってもいいですか?」
「……本当にすぐ戻ってくるのよ」
「もちろん。仕事のスケジュールは狂わせません」
背に手を回し膝裏にも添える。ヌナは基本スキニーだから、横抱きでかかえても問題はないはずだ。だらりと垂れた腕に冷や汗が出る。本当に気を失っているようだ。
僕は、ヌナに休んで欲しかった。ヌナは僕たちを笑顔にしてくれるし、キラキラさせてくれるけれど、そのヌナが笑っていないと嫌だから。僕たちにできる事は歌を歌ってダンスを踊る事で。
armyだったら、どうすれば笑顔にできるかわかるのに、ヌナが相手だとどうすれば正解なのかがわからない。僕もヌナに魔法をかけたい。
この優しくて温かいヌナのことを守りたい。
ヌナは僕の髪を見てごめんなさい、と言った。多分自分のせいで僕が寝癖を直してきたのだと思ったのだろう。その通りだ。ヌナの仕事を減らすためにした。ヌナのためだ。
「全部全部、ヌナのためなんですよ」
ベッドに下ろして布団をかけて、ヌナの頬に手をそえる。
眠れてないんじゃないですか、と、ヌナが僕たちの睡眠を気にかけるように僕も心の中でそう呟いた。
仕事にも、そのあとの練習にも穴は開けない。けれども、その間に休憩はある。
「ヌナ、目を瞑って──」
今から魔法をかけるよ、ヌナ。
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めぐみ(プロフ) - はぁ………とため息が出るほど、ちょっと目の奥が熱くなるような感覚を知るほどに素敵な作品でした、ありがとうございます(;;)みんなすごく心が優しくて、読んでいて私も優しい気持ちになりました。もし番外編など、浮かびましたらその時をまた楽しみにしています! (2022年3月15日 19時) (レス) @page43 id: 70e57b3fd4 (このIDを非表示/違反報告)
mii(プロフ) - 好きー (2021年8月18日 8時) (レス) id: d47eb74ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - ひろさん» ありがとうございます! ラストはしりすぎたかな? とちょっと心配だったのでホッとしました( ˘ω˘ ) 続編は今のところ考えてないです( ; ; )すみません( ; ; ) 何か浮かべば番外編を書くかもなあというくらいで……コメントありがとうございました! (2019年12月19日 23時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - じゅりさん» ありがとうございます! 私自身続編系???となってましたがなんとかおさまりまして……笑 次の作品はかわいい控えめかもしれませんが、がんばります! (2019年12月19日 23時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - ラストの展開、キュンキュンしながら読ませていただきました!面白かったです!続編楽しみに待ってますね! (2019年12月19日 18時) (レス) id: 099739feed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちよ | 作成日時:2019年12月8日 16時