episode345 Side H ページ5
「僕はフロイ・ギリカナン。これから剣を交える皆さんに、ご挨拶に参りました」
挨拶に現れたフロイと、ロシア代表・パーフェクトスパークのメンバー。
俺達だけじゃない、アメリカ代表やスペイン代表のメンバーにも。
ピリ、とした空気が、静電気のように微かに、それでも確かな痛みを伴って、そこらに張り巡らされた。
フロイの視線が、確かに俺を捉えた。
嬉しそうな表情に見えた、というか、偽ることの出来ないあいつの性格上、実際にそうだったんだろうけど、今のこの状態で駆け寄ることも、話に花を咲かせることも相応しくない。
フロイ、君は＿＿オリオン財団の悪事に関わっていないと、俺は信じてる。あの時の、確かに築いた友情を。
でももし、そうでなかったら？
(俺は、君のことも、討たなくちゃいけなくなる……！)
その瞬間を想像するだけで、鼓動がまるで警鐘のように早鐘を打ち始める。
信じたい、信じるのが怖い。
それらの思いが激しく反発して、強く跳ね除け合う。
今にも心の内を破って、言葉になってしまいそう。
真っ直ぐ問い詰められたら、どれだけ楽だったか。
「光くん」
「A、ちゃん」
「思い詰めないで。大丈夫だから、ね」
小さな掌が、そっと俺の肩に触れる。
それでも、今の俺にもたらしてくれた安堵は測りきれないくらい、大きなものだった。
冷たい冷たい、探り合いの中。
かつての自分も、きっとここで罪人として値踏みをされたはずだ。
Aちゃんはそこに僅かな波紋すらも広げることもなく、Aちゃん以外には誰にも見えない俺の心にだけ、ひっそりと優しさを連れて来た。
「あとで、ふたりで一緒に話をしに行こう。私だって、本当のことを知りたい。私の目ならきっと、事実を捕まえることが出来る」
今、フロイから視線を逃がすのは、心ごと逃げるのと同じだ。だから、逸らせない。
だから、きっとAちゃんは、真剣だけど冷たくはない、優しい表情をしている＿＿とほぼ確信めいた期待を寄せながら、Aちゃんの涼やかな声に耳を澄ませるだけにしていた。
「それが、光くんの望む事実かは分からない。けれど少なくとも、君の今の不安を少しでも散らしてはあげられるから」
飛行機を降りてから、俺がAちゃんにそうしたのと同じように。
Aちゃんは俺の手を、そっと包んでくれる。
「……怖い？」
「……ううん。怖くないよ、平気」
それに応えようと、ぎゅっと握り返した。
「Aちゃんがいるから、怖くない」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
