episode344 ページ4
「……人が多いと、やっぱり落ち着かない？」
到着ロビーを歩く最中、当たり前のように隣にいた悠馬が小さく首を傾げて、私の顔を軽く覗き込んだ。
話がちょうどいいところで落ち着いたのか、規則正しく波が打つように、それぞれの代表チームのメンバーが流れて空港を出ていく。
交流ではなく、遠くからの観察に専念していた私は、これよりも少し前に素知らぬ顔をして、再びメンバーと合流している。
空気は、比較的柔らかいままであったように感じた。
どうやらアメリカ代表やスペイン代表とは、それなりに友好関係を築けたという着地点には至ったらしい。
＿＿それが本当のものなのか、表面上でしかないのかは、判断するにはまだ証拠が足りないけれど。
「……別に。平気だよ」
すぐ後ろを歩く稲森先輩や氷浦先輩にも、聞こえないようにと、零す呼吸すらもきつく絞りながら。
「そろそろ、ホスト国のお出迎えがある頃だろうな、と思って。少し、集中しているところ。私は君ほど、人と話すのは得意じゃないから」
「よく言うね。僕も、君に何度丸め込まれたか」
「適性の差だよ。君は誰彼構わず、関係性を浅く広くと築くのが好きらしい。けれど私は予め、狙いを定めてから、狭く深く＿＿互いに沈み込むくらいになることを、覚悟して他者と関わっているからね」
多少なりとも警戒をされることは念頭に置いている。それでも最終的には、フロイ・ギリカナンともそういった関係を築くつもりだ。
(あの時の……一星、充くんの時のように)
「へぇ。じゃあ、僕もそうなの？」
「何が」
態とらしい笑みに、嫌な予感がした。
そしてそれは、皮肉にも的中することになる。
「情が移ることも覚悟で。こうして僕と、相棒として関わってくれてるってことかなって」
いつも冷酷に指揮をする指が、今だけは優しく、そっと私の髪を撫でた。
神経が通っていないはずのそこに、確かに感じ取ったのは、ひた隠そうとしていたのだろう、曖昧な熱。
「……ねぇ。まさか君、妬いているんじゃないだろうね」
「あは。バレた？」
「ああ、もう……相変わらず面倒だな、君は」
離れていく悠馬の指先に、私の癖混じりの毛先が、まるで甘えでもするかのように柔らかく絡む。
それが気に入らなくて、ぐしゃぐしゃと掻きむしるふりをして乱暴に解いた。
「つつがなく諜報活動を続けたければ、僕に構うのも忘れないようにね。あんまり焦らされたら、拗ねるつもりだから」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 424人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
