episode368 ページ28
「悠馬」
「……っ、……！」
弾かれるように開いた目に、動揺の色。
呼吸も少し浅い。まるで夢にでも溺れて、私の知らないところで足掻いていたみたいだ。
「ゆうま、さん……？」
「……呆れた、まだ寝惚けているのかい。
寝こけてミーティングに来なかった奴の、間抜けな寝顔でも拝んでおこうかと思ったのに。
眠る悠馬は穏やかとはいかず、酷く
(由羽真さん、＿＿ね。)
悠馬は君の方でしょ、って。
わざととぼけたふりをしたけれど。
「ほら、ミーティングの報告を持ってきたよ。気分が優れないなら、明日まで待ってあげてもいいけれど」
「うん、そうしてくれるかな。今は、僕の傍にいて」
「え、嫌。早く自主練習に行かせて」
「……はは…っ、少しでいいから。……お願い…」
いつもなら振り払ってしまえるはずの少し冷たい手、そして長い指が、寂しげに私の指を絡めとった。
触れたところから、とろとろと溶け合うように体温が混じって、そこに生まれた同情が私の意地を塞き止めてしまう。
握り返しはしなかった。
でも、離れようともしなかった。
悠馬はまた夢に沈むかのように、そっと目を閉じながら、ぽとりと小さく、言葉を唇から落とす。
「由羽真さんの夢を、見ていたの」
「へぇ。私も、少し前に見たよ」
「Aの夢では、由羽真さんはどうだった？」
＿＿夢の中では。
いや、夢の中でも、由羽真くんは優しかった。
でもそれは、幻。
本当の由羽真くんの気持ちは、由羽真くんにしか分からない。
(それでも、その幻に少しだけ、救われた)
「……Aは由羽真さんに、夢なんかじゃなくて、現実で会いたいって思う？」
所詮は、幻。
だからそんな言葉、信じられないよ。
信じられないような言葉を、こうして今、真剣に紡いでいる君のことだって、信じられない。
「君の望むお兄さんじゃないかもしれないけど、僕なら
＿＿ああ、こいつは、私の目の前にもかつて現れたあの由羽真くんの幻に、取り込まれてしまったんだ。
「ねぇ、A。僕の中に、まだ由羽真さんがいるって言ったら……Aは、信じてくれる？」
そう突き付けられた瞬間に私は、優しく丸め込むように握られていたその手を思いっきり振り払って、悠馬に向けて振り上げていた＿＿。
369 テンプティング・インビテーション Side Y→←367 error-XXX＿＿Side Y
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
