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メトロノームみたいに規則的に、と思えば、でたらめなリズムを楽しむように。
ボールを軽く跳ねる音に吸い寄せられるように、屋内フィールドをそっと覗く。
「そんなところで突っ立ってないで、入っておいで。悠馬君」
癖混じりのアリスブルーの髪。
柔らかく伸ばしたそれを、ふわふわと靡かせながらフィールドを駆け回る姿が、ずっと好きだった。
「由羽真、さん……」
「やっぱり、悠馬君だ。足音で分かったんだ。すごいだろ」
花綺更 由羽真さん。
Aの、たったひとりのお兄さん。
纏ったモノクロのユニフォームとお揃い。
両目を塞ぐように、真っ白な包帯が巻かれている。
なのに、視覚が封じられたことも感じさせないくらいに滑らかで、それでいて観客＿＿今の僕＿＿を楽しませるようなボール捌きだ。
まるで、ボールに愛されているみたい。
ボールが、由羽真さんから離れたがらない。
くるりと優雅なターンに合わせて、アリスブルーの波が円を描いた。
指の先ひとつまで綺麗に伸ばして、お辞儀。
「うちの父さん＿＿花綺更 来善って男はな、サッカーは好きだったんだけど、選手としてはどうも大成しなくて。どちらかというと、パフォーマーだったの」
そのまま、するりと目元の包帯を解いていく。
風なんて吹いていないはずなのに、解かれた包帯は酷くもったいぶるみたいに、由羽真さんの指先でふわふわと戯れていた。
可憐な少女のようにも聞こえていた声は、僕と知り合ってしばらくしてから声変わりを迎え、一時期はがらがらと掠れてしまったせいで、上手く喋れなくなったこともあったらしい。
そして、その掠れが引き切った暁には。
まるで役者のような、凛とした声に変わった。
「教えてくれたのは、“魅せる”ことに特化したドリブルとか、トラップのやり方ばっか。御堂院に引き取られて選手として使われることになった時は、苦労したんだぜ」
解けた包帯の先には、不揃いな双眸に見つめられていた。
泥のような真っ黒な左目と、Aと同じ幻色の右目。
「Aちゃんとお揃いの、自慢のこの目がさ。使いもんにならなくなっちまうくらいに」
優しい垂れ目。髪と同じ、色素の薄い睫毛。
あの頃の由羽真さんのまま。
それなのに、拭い去れない違和感。
「本当に、由羽真さん……？」
「いや、本当の俺はもうとっくに死んでるから」
僕の知ってる由羽真さんは、そんな顔、しなかった。
そんな意地悪、言わなかった。
「君にとって、都合のいい幻だよ」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
