episode359 ページ19
「でも、吹雪先輩。この怪我じゃ、もう」
「分かってる。僕は最後までこのチームには居られない」
これほどの傷で、よくあそこまで、誰にも知られないように振る舞えるものだ。
私の目じゃないと、きっと、誰も気付けない。
このひとは、ひとりで苦しみを抱えていたんだ。
いつ脚が壊れるだろうと恐れながら、走り続けた。
「うちの、悠＿＿野坂の、せいです」
「彼のせいでも、君が謝る必要も、ないよ」
「でも」
どうして、その怪我を隠していたのか。
何となく、想像はつく。ついて、しまう。
(仲間を＿＿悠馬を、庇っていたの？)
「僕達はこの大会が始まってから、ずっと狙われてる。もしあの場で、誰かが怪我をしなくちゃならなかったなら」
それが僕で。
それが僕以外の誰かじゃなくて、よかった。って。
＿＿続く言葉が容易く想像出来てしまって、思わず顔が強ばった。
いくら先が分かっていても、それを貴方の声にしてしまいたくない、それを貴方の本心として受け止めたくない。
「そんな言い方、しないで……」
だからって、子どものように、まるで泣き出しそうになりながら引き留めてしまうなんて。
そして、吹雪先輩に心配を掛けてしまって、こうして悲しそうな顔をさせてしまうなんて……。
「一星くんのことやオリオン財団のことに、一番真剣に向き合っているのは、いつも君だった。僕にはそう見えていた。……だからAちゃん、頑張りすぎてないかなって。少し、心配だったんだ」
吹雪先輩の声は、冬の空気みたいに凛としている。
優しいだけじゃなくて、確固とした意志も感じさせるような声だ。
上手く言えないけれど、目が覚める、背筋が伸びる、という心地がした。
「ね。こう思うと何だか、不思議だね。僕達ってこうして話したことはなかったはずなのに、お互いに意識し合ってたんだ」
最初は、使命感。
特別な目を持つ私がやらなきゃ、って。
その次に生まれてしまったのは＿＿ただの、情。
一星充くんから、目を離せなくなってしまったから。
「……私、鬼道先輩と約束したんです。私なりの正義を、最後まで貫く。いつだって私が愛するサッカーを、したいから」
そして今、私を走らせているのは何？
きっとまた巡り巡って、使命感。
(その為にも、もう誰も傷付けたく、なかった)
私をじっと見つめていた吹雪先輩は、静かに息を落としてから、また寂しげに微笑んだ。
「Aちゃん、良かったら今から、僕と内緒話をしようか。付き合ってくれる？」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
