episode199 ページ6
白猫を追って、コンクリート塀をとん、と登る。
由羽真くんからパルクールを教わっていたのはずっと昔、しかもほんの数年間のこと。
けれど、今も私の心に、そして体に。深く、強く残っていた。
何せ、私の無意識のうちにプレイに現れていたくらいなんだから。
そしてあの試合でリミッターを外してから、昔と同じように、こうしてまた自由に飛べるようになったんだ。
(あれだけ悩み抜いたっていうのに、解決の鍵は、既に私の中にあったんだ)
ひゅう、と温く吹き抜けた夏風が、ひとの気配のない
壁から迫り出した障害物も、2本の腕と2本の脚を使って軽々と飛び越えていけば、その風すらにも追いつける気がした。
ううん。それどころか、体全部が風になっているような疾走感。
＿＿にゃあ。
「ちゃんとついて行けているよ、大丈夫」
＿＿にゃあ、にゃあ。
「……猫って、あまり鳴くのは好きじゃないって聞いたけれど。君はよく鳴いてくれるね」
この子には、言葉が通じているのかも知れない。
そんなことまで考えてしまって、今はどうしようもないくらい胸を高鳴らせていたんだと思う。
塀から屋根の上へと駆け登れば、視界は一気に広く、空の色に染まる。
こんなに特等席に、他の誰もいないなんて。
すごく勿体ないな、と優越感に浸りながら、屋根と屋根を渡る。宙を軽く跳ねていくような感覚が、何よりも気持ちいい。
この街の誰よりも、空の近くにいるのが私。
今此処から手を高く伸ばせば、大きな綿菓子のようなあの入道雲にも、ぎらぎらと肌を焦がすあの太陽にも触れられそうだ。
ああ、懐かしいな、この愛しい感覚。
悲しみと一緒に、記憶の底に閉じ込めておこうなんて。どうしてそんなことを考えていたんだろう。
(これは由羽真くんとの、幸せな思い出だったね)
薄手のカーディガンの背中が、いっぱいの風を受け止めて大きく膨らんで、ひらひらと無秩序に翻る。
まるで、自由に空を舞う羽みたいに。
「あのね、実は病院に行くまでに、数カ所寄りたい場所があるんだ。少し手荷物が増える予定だから、続きはお菓子やお花が崩れてしまわないようなナビゲートをお願いできるかな」
最初の目的地である、花屋の赤色の屋根が近くに見えてきた。
振り返った白猫に、指差しで示しながら。
＿＿よろしくね、白猫さん。
“白猫さん”と呼んでから、こんなにお世話になったんだから、お礼に名前でもつけてあげるべきだろうか。なんて、ぼんやり考えていた。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
