episode236 Side M ページ43
他のものに例えられない、あまりにも果ての見えないあの空の広さを、ひとは一体何で測ったのだろう。
そんな広大な空の下なのに、俺は今、どこへも行けない。Aの視界に、繋ぎ留められたまま。
窓から切り取られた空は、まるで暗い牢獄に態とらしく貼り付けられた、手には届かないようなどこか遠くの希望みたいだ。
「今更、聞く気にもならない？私のことを知っていて、損にはならないと思うけれど」
「そ、それは」
損にはならない、確かにそうだ。
でも、今の俺に得はあるのか？
＿＿“もういい”。
＿＿“潰しにかかれ、一星”。
Aの目は、もういらない。
だったら今更、聞く意味はない。
それは、組織にとって意味がないということ。
でも、組織に関わらない、俺自身にとっては？
損だとか、得だとか、そんなことも捨て置いて。
(……知りたい)
目のことなんかじゃなくて、まだ何も知らないAについてのこと。
どうして、そんな優しい目で俺を見るのか。
どうして、自分の兄の話を引き出したのか。
＿＿どうして、ずっと俺に手を差し伸べてくれるのか。
「……そんなことより、何で急に話す気になったわけ…前聞いた時は、必死に話逸らそうとしてたのに」
俺は必死だった、組織からの役目を果たそうと。
だから、ずっとAの背を追っていた。
なのに、大人の勝手で始まったその役目は、大人の勝手で突然終わりを告げる。
Aを追いかけていた俺は、中途半端な真実だけを捕まえたせいで、Aから目を離せなくなってしまったんだ。
そして目の端、心の端でずっと掴もうとしていた真実が、今はAの手から差し出されていて。
「……あの試合で何か、心変わりしたってこと？」
「うん、それもあるよ」
ぱちりとAが瞬きをすると同時に、敵味方問わず翻弄していった、あの幻色の蝶々が見えた気がした。
身震いするくらい綺麗だ。なのに、とびっきりの意地悪でもある。
「私は前と違って、目だけが取り柄ではなくなった。今なら、目のことを話してもいいかなと思ったのと」
細い指が、そっと目元をなぞっていく。
Aの指は次に俺の指先へとじゃれついて、悪戯に弄びながら、またそんな風に俺に微笑んでみせるのだ。
「何よりも、君の気を惹きたいから。それだけだよ」
とんでもない駆け引きだ。
あれだけ伏せたがっていた自分の過去を、こんな風に交渉の材料にしてしまうなんて。
それなのに、その手を今すぐにでも掴みたくて仕方なかった。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
