episode233＿＿in the past Side Y ページ40
「ここが、由羽真さんの部屋だよ。Aちゃん」
がらんと静まり返った、主を失くした部屋。
王帝月ノ宮中学の学生寮の中でも少し離れた位置にある、他の生徒よりも広く立派な部屋だ。
由羽真さんと同じ色の瞳を持つ女の子は、僕の手に引かれて、恐る恐るとその部屋に足を踏み入れていた。
「私と一緒に練習したサッカーボールと、家族の写真……ずっと飾っててくれたんだ」
花綺更 由羽真、花綺更 A。
ふたりの名前が異国の表記で入ったサッカーボールをそっと手に取りながら、くるりと周りを見回して、僕に問う。
「でも、他のものはほとんど無くなっちゃったんだね。もう、あのひと達に処分されちゃったのかな」
あのひと、御堂院のことだろう。
その先にある、あまりにも酷な真実に言葉を詰まらせているうちに、彼女は机の引き出しを開けていた。
小さな掌には似合わない、大人達の悪意の塊のようなそれを、ざらざら、と机に広げていく。
「……見たことない薬が、いっぱい。これって、全部由羽真くんのものなの…？」
「……由羽真さんは、途中で失明してしまったんだ。プログラムに使われた薬品＿＿あとは、極度のプレッシャーとストレスが原因だって」
それは僕が言い終える前、だったと思う。
言っていた僕だって、そんな酷な事実を彼女の前で口にすることで、その刹那は凍り付いていた。
薬品名と日付が点字で打たれたプラスチック容器が、かしゃん、と足元に零れ落ちる。
「だから、日常生活も1人じゃ立ち行かなくなって。部屋のものはもう全部要らない、使えないから、捨ててほしいって頼まれた。そのボールと、家族で映った写真以外は」
「ゆ、うま、くん……？」
ゆうまくん。
同じ名前だけど、今呼んだのは、どっちのこと？
＿＿なんて、言わずとも嫌でも分かること。
そんな風に呼ぶのは、きっと僕のことじゃない。
「それでも、サッカーは続けていたんだよ。目で見えなくても体が覚えてる、って感じだったのかな。まるで、失明したというハンディキャップを微塵も感じさせないようなプレイだったんだ」
最期まで、サッカーを続けていたこと。
それが僕にとっての、救いだったから。
そしてそれが、君にとっての救いにもなりますように。
「ねぇ。僕とサッカーをしよう、Aちゃん」
今は、ここでいい。
でもいつかは僕達も、かつてのあの人みたいに、自由に真っ直ぐと、羽ばたける場所へと。
「由羽真さんも、それを望んでくれるはずだから」
episode234＿＿in the past Side Y→←232 ロスタイム・ジュヴナイル
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 279人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
