232 ロスタイム・ジュヴナイル ページ39
「でも、それは違うよ。そんな卑怯なことをする為に、君の弟に会いに行った訳じゃない」
胸倉を掴まれて、しわの寄っていた襟ぐりを簡単に整えた後、大きい破片を袋の中に全て収め終える。
零れた紅茶も拭けたし、あとは一星充くんが帰った後で、手で拾いづらい細かい破片を掃き取ればいい。
鋭く尖った箇所には触れずに処理したし、指は切らずに済んだ。宿舎内でもスポーツシューズは履いているし、踏んで怪我をするということもないだろう。
どんな理由であれ、血を見るのは好きじゃない。
「……会いにまで、行ってたのかよ…」
一星充くんが、何を
今の君を変える為には、一星光くんと会って話をしなくちゃ始まらなかった。
先程まで新品のマグカップが入っていたコンビニの袋の中に、カラン、カラン、と物悲しい音を立てて、破片が積み重なっていく。
ここに流れたままの静寂を体裁よく飾り立ててくれる程、いいものでもなくて。
それは私の次の言葉を急かすような非情さも、どこかぼんやりと内包されていた。
皮肉も、遠回しな言葉遊びも、今は相応しくない。
「一星光くんと出会って、考えが変わったよ。私は君だけじゃなくて、一星光くんのことも助けたい」
一星充くんの正面に座り直して、ゆっくりとその懐疑的な眼差しと見つめ合う。
逸らさずに見つめ続ければ、一星充くんは私の視線から逃れるように、自らの掌で両目を隠してしまった。
まるで、ぽたぽたと涙を零す寸前みたいに。
「嘘つき、……そんなの、嘘だ…俺は、俺はずっと」
「嘘じゃないよ。じゃあ、一星充くんは、どうすれば私のことを信じてくれる？」
一星充くんが両目を塞いだのをいいことに、彼にそっと手を伸ばすこともできたのに。
私は“いつも通り”、可愛げなく微笑むだけ。
指の隙間から、再び蒼色の瞳が覗く。
彼も同じように“いつも通り”、鋭い目つきに戻っている。
「たとえそれが嘘だとしても、この期に及んで、まだ俺のこと“助ける”なんて……よく言うよ。お人好し」
でも、その棘のある言葉の中に少しだけ、縋り付くような怯えが見えたのは、きっと気のせいではなかったんだと思う。
そんな僅かな隙を捕まえてしまいたくて、私はそっと目を伏せて、今の一星くん達と重なる過去を記憶の奥底から、呼び覚ましていた。
「……だって、私達と同じような目には遭ってほしくないんだ。私と、私の兄みたいにはさ」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
