episode197 ページ4
相変わらず、人混みは苦手だ。
でも、前程苦しくはない。
目の使い方も、少しずつ変えるようにしている。
無駄に視界を広げて意識を必要以上に尖らせるのではなくて、必要な情報だけを瞬時に選び取ってそこに集中すればいい。
無茶をすることはなくなったから、嫌な痛みに苛まれたり、鼻出血を起こしたりなんてことも一緒になくなるはず。
これ以上西蔭さんに迷惑も掛けたくないし、これ以上悠馬に借りも作りたくない。
(今日寄る予定なのは、本屋と花屋と、あとはあそこでお菓子を買って行こう。……病院帰りには、コンビニにでも行けたらいい)
商店街の数箇所にピンを立てるように、少し遠くの方へ、ぱちりと目を遣る。
そして病院の方向に爪先を向けて、此処からの最短ルートをなぞって指を動かした。
買い物の時間を考えたとしても、11時までには充分病院に着けるだろう。
初対面ということもあるし、長時間滞在するなんて失礼なことをするつもりもない。
雨脚が強まるという夕方までには帰れるはず。
「あの」
さて。と息を入れ直したところで、今爪先を向けていた方向から、少し前からずっと此方を見ていた若い女性がぱたぱたと私の元まで駆け寄って来た。
「すみません、イナズマジャパンの花綺更 Aさんですよね？」
先程までは普段と同じように、妙に目立つ色の目のせいで遠巻きに見られているのかな、と思っていたものの、何やら違うらしい。
周りからの視線も何やら確信に変わったのか、密かなざわめきを渦巻かせながら、一気に私の方へ向く。
「わ、やっぱり……！この前の試合見ました、あれからファンになったんです。今、FFの決勝戦も見返してて！」
(……それは、あまり良い思い出のない試合なのにな)
「ありがとうございます。これからもチーム共々、応援して頂けると嬉しいです」
こういう時は、仕方ない。
街で声を掛けられた時の悠馬の真似をする。
静かに、そして自然にその場から離れていくこと。
＿＿騒ぎにしては駄目だから、下手に跳ね除けずに。
かといって、気安く歩み寄り過ぎずに。
「はいっ、これからも頑張って下さい！応援します」
街を歩く私に合わせて、いくつもの視線が示し合わせてでもいるように、緩やかな流れを作っている。
あんな風に世界を見ていた私自身が、憧れの目で見られる側になるとは思いもしなかった。
数十の視線を掻き分けながら、やや早足で一陣の風のように人の波を過ぎ去っていく。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
