episode220 Side S ページ27
冴えない夜空の下、再びAが俺達の部屋を訪れた。
どうやらキャットフードを此処に置き忘れてしまったことを、猫の夕食時になって思い出したらしい。
「あの猫、随分可愛がってるようだな」
「しばらくは宿舎で飼っていいって許可も貰えましたし、拾って来た私が責任を持って構ってあげないと」
猫は先程もこの部屋に居たが、一向にA以外に懐く様子はないくせに、野坂さんのベッドで気ままにごろごろと眠り転けて、真っ白な毛で散らかすだけ散らかして。
(俺から見れば、可愛げのないことこの上ないが……)
大会や一星の件で気を張り詰めたままのAは十分な気分転換ができているようだし、そこまで文句は言えない。
あれから部屋に残されていたジップのついたキャットフードのパックを手に取りながら、個室内の浴室の明かりを見つめて、“そういえば、”と首を傾げる。
「ついでにあれから考えたことも話しておこうかと思ったけれど、残念。悠馬、入浴中？」
「伝言なら聞くが、直接話したいならしばらくここで待てばいい。もてなせはしないが」
「そうですか。じゃあこの話は、西蔭さんとふたりですることにしようかな。どうせ悠馬は、シャワーでも浴びながら考えごとをしているんだろうし」
野坂さんに話さなくてもいいのか、と聞こうとはしたものの、その言葉を遮るようにAは温度を感じさせないような、挑むような笑みで自らの話をそのまま継いでしまった。
「驚きましたか。先程の、一星くん達の話」
「……ああ。まさか」
此方の調子は、少なくとも伺ってくれている。
しかしそれは彼女にとって思いやりではなく、一種の遊びだ。振り落とされないように会話について行く俺を、面白がって見ているだけ。
俺は溜息で区切った声を、苦々しく継ぎながら。
「
虹彩。
目の色、瞳孔の周りの模様。
虹彩は指紋と同じように、同じDNAを持つ一卵性双生児でもそれぞれ異なるものだ。
ただでさえ恐ろしかったAの目は、この大会内で信じられない速度で進化を遂げている。既に、人間の虹彩を見分けてしまうくらいに。
「はは、嘘みたいな話でしょう。私の目を頼りにしてくれている西蔭さんでも流石に、信じられないかもしれないけれど」
ストレスと、使命感で限界まで研ぎ澄まされた“聡眼”。
Aは今、どんな思いでその視界を臨んでいるのだろうか。
episode221→←219 ブルーアイリス＿＿Shortly before
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
