episode214 ページ21
ミハイルを両腕で抱えているから、仕方ない。
少し乱暴かもしれないけれど、爪先で軽くドアをノックをする。
迎え入れてくれた悠馬と、個室内の簡易キッチンに立つ西蔭さん。
何かと多い悠馬の私物は、西蔭さんの協力もあって、思いの外早く整理が進められていた。
もうここで長く過ごしていたのでは、というような“こなれ感”さえもある。
「呆れた、猫の面倒もまともに見られないのかね。灰崎くんともう少し話をしたかったのに」
「そんなこと言ったって、仕方ないじゃない。その子、本当にAにしか懐かないんだよ」
珍しく本当に困った、といった様子だ。
出会ってからずっと良い子にしていたのに、本当かな。抱き抱えていたミハイルの顔を覗き込んでみるものの、無垢な金目銀目が素直に此方を覗き返すだけ。
「みーくん。いい子だから、僕のとこおいで」
しかし悠馬が声を掛けた途端に、ふわふわの毛を全部逆立てるくらいの勢いで威嚇し始めた。
「ほらね。ずっとふーふー言っててさ。僕だけじゃなくて、西蔭も駄目で」
「……それはもう仕方ないとして、“みーくん”って何」
「Aが付けた名前、ミハイルくんって言うんでしょ。だから、みーくん。呼びやすくていいと思って」
……そういう、“自分が嫌われる訳が無いだろう”って態度が気に食わないんじゃないかな、とも思ったり。
人当たりの良さと、独特な距離感の保ち方。悠馬は中学生とは思えないくらいに、人付き合いは上手な方。
だからこうしてあからさまに嫌われるのには慣れていないんだろうし、かなり戸惑っているように見える。
「A」
いつもの悠馬とは違う、余裕の無い表情。
今から揶揄ってやろうかと思った時、それを容易くも未然に防ぐように西蔭さんに声を掛けられた。
「コーヒー、あんたも飲むか」
「ああ、それならカフェオレにしてもらえると嬉しいです。お願いできますか」
キッチンに並べられていたのは、インスタントコーヒーとお湯の沸いたポット。
そして何より目を引いたのは、その隣のお菓子の箱。
「……ん、これは貰い物？」
「そう、監督からAと、あと僕達にもって。今までのことの色々謝罪の旨を述べて、頭まで下げて渡しに来たよ」
割って入った悠馬の言葉に、いつか李くんと話した内容がふわりと記憶に甦る。
＿＿じゃあ、菓子折でも持って、頭を下げに来たら少しは考えてあげるよ。
(…まさかあの監督、本当に菓子折りを持って頭を下げに来たってこと……？)
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
