episode196 Side Y ページ3
あれから数日。
どれだけ内部に歪みが生じていようと、今僕達は表向きに、世界と戦っていることになる。
だから毎日を練習に消費しているけれど、今日は事前にチームメイトに、そして監督にも伝えて、一日だけ特例で休みをもらってきたあげた。
“せっかく貴重な時間を差し上げるんですから、息を抜いてきて下さいね”、とは言われたけど。
事情も知らずにお気楽なことだ、と苦い顔をするAがありありと浮かんで、その伝言は僕で留めておくことにする。
「本当は僕と西蔭も、行きたかったんだけど」
「大勢で行ったら病院側にも、一星光くんにも迷惑。あったことはちゃんと話すから、今日は留守番」
Aの私服にしては数段かっちりとした、シャツとカーディガンの組み合わせ。
色味に派手さはなく、いかにも礼儀を弁えた余所行き、といったような感じ。
鏡の前で軽く前髪を整える姿は、何だか普段と違う。
やんちゃな言葉を操るあどけない様子は、いつしか息を潜めている。
「そうだ。今日、午後から雨が降るんだって。折り畳み傘、鞄に入れとくからね。夕方に大降りになるらしいから、それまでに帰っておいで」
「はいはい」
いつも通りのそっけない態度まで、気掛かりになってしまう。
「そういえばさ、一星くん、今朝から出掛けてるらしいね」
「え……ちょっと、早く言ってよ、そういうことは。で、あの子の行先は」
ドアに手を掛けていた彼女が、此方を振り返ると同時に、せっかく整えていた前髪がまたふわりと散らばる。
自由に風を乗りこなすAには、こっちの方が似合うのに、なんて言ったら、女の子を怒らせてしまうかな。
「分からない。監督も知らないって」
「……今日外出予定があるひと、いたかな」
「いや、特には聞いてないけど」
何やら考えた後で、Aが自慢の目をすっと鋭く細めたから、また尖った態度の一針をくらうのかと思っていた。
しかし、続いた言葉は予想を少しだけ逸れていて。
「じゃあ、今日一日、できるだけ外出は避けてって皆に伝言を頼むよ。もし急ぎの用事なら、必ず君か西蔭さんのどちらかが付き添うようにして」
「……なるほどね、何かあったら証拠を捕まえて来いってこと？」
「出来ればね。でもそれよりも、守れるでしょ、優秀な先輩達なら。私達の大事なチームメイトのこと」
……あ、いつものAだ。
僕がそう安心すると共に、どこか無邪気で揶揄うような笑みを残して、Aは軽やかに駆け出していく。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
