212 ワンステップ、ストライカー Side R ページ19
「灰崎くん」
練習の合間の、休憩時間。
自分の部屋に戻る最中、廊下でAに名前を呼ばれて振り返る。
「……A。大丈夫だったか、雨降ってただろ」
「うん、平気。もしかして、心配を掛けていたかな」
「心配っていうか……テメェなら雨とか構わず、ずぶ濡れで帰って来そうじゃねぇか」
「はは、確かに」
雨に打たれて、気だるげに濡れた髪をかきあげる姿も。そのせいで、お子ちゃまみたいにくしゃみをする姿も。
面白いくらい一緒に繋がって浮かんできて、一瞬掛ける言葉を戸惑った。
「はい、これ。灰崎くんに」
「俺に？……何だよ、急に…」
手に持っていたのは、コンビニの袋。
中身は、何かの箱らしいが。
がさ、がさ。
ビニールから取り出されたのは、クマゾウのペアマグカップだった。
Aからこんなものを渡されるとは思わず、箱を受け取りながら驚いていた俺の顔を、何やら楽しそうに見つめながらAは続ける。
「本当はいちばん上の賞の、大きなぬいぐるみを持ち帰って君に渡す予定だったんだ。でも、ごめんね。運は良いはずなのにな」
少し悔しそうな素振りを覗かせながらも、それでもやっぱり皮肉っぽく、Aらしく。口元だけで笑って。
「ずっとあの試合が終わってから、お礼を言いたかったんだ。歩き出したのは私自身でも、私の背中を押してくれたのは君だったんだよ。灰崎くん」
前に向き合った時、本当は張合いがないヤツなんじゃないか、と思ってたのが嘘みたいだ。
＿＿俺等に流れてるのは、ストライカーの血だ。
多少の悩みなら、点取れば解決する。
(ほらな。あの時の言葉、嘘じゃなかっただろ)
「ん。……ペアのマグだから、片方やるよ。A」
「……え、どうして？これは私から灰崎くんにあげたものなんだから。私は受け取れないよ」
「俺がもらったもんなんだから、俺の勝手だろ」
落としたりなんかするなよ、と念を押して、小さな両手にマグカップを握らせながら。
「喜べよ。テメェのこと、俺のライバルにしてやる。あのシュート、悔しいけどすげぇ痺れた」
髪がくしゃくしゃになるくらい頭を撫でてやれば、皮肉ばかりを吐く唇が、泣き出す寸前みたいにぎゅっと縫い閉じられる。
褒められることに慣れてないというか、褒められ下手なんだろう。
「……灰崎くんのライバルって、吉良先輩じゃないの」
「バカ。競い合えるヤツは、1人じゃなくたっていいだろうが。だからそれは、俺からの祝いってことにして黙って受け取っとけ」
213 Devil is not so black as he is painted!!!→←episode211 Side Y
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
