episode204 Side H ページ11
花綺更さんは歳よりもあどけない容姿に反して、それを歳相応、むしろそれ以上の大人に引き上げるくらいの言いようのない陰がある。
ベッド横のデスク。すぐに触れられる距離、すぐに眺められる距離に置いたプリザーブドフラワー。
中に咲いた蒼色は、俺と兄ちゃんの名前になぞらえて選ばれたらしい。
「ごめん。少しだけ待ってね、……はは、話そうとしていたこと、ちゃんとあったのにな」
くしゃくしゃと髪を掻きながら、ずっと合っていた視線が解れた糸のように離れていく。
睫毛の影が落ちて、途端に近寄り難い印象を受ける。さっきまでは、優しい女の子だったのに。
「……話したく、なくなっちゃいましたか」
何か悪いことでもしちゃったんだろうか。
不安を覚えれば、花綺更さんはまた視線を合わせて、俺の表情を複雑そうに見つめて首を横に振った。
「そういうことじゃないよ。ただ、私にも兄がいてさ。何だか、よく似ていて不思議な感じがしたんだ」
意外な言葉に、今度は俺が彼女の目を覗く。
「……えっ、俺と、花綺更さんがですか？」
「うん。そう思わない？」
「花綺更さんって、俺と違ってすごく大人っぽいから。あまり、似てるとは思いませんでした」
素直に大人っぽい、と言った俺に、くくっ、と少し楽しそうに笑う。
笑った顔はちょっと子供っぽく見えて、何だか可愛い。
「それに、一星充くんのことも、兄とよく似ていたように思って」
「そうなんですか。花綺更さんのお兄さんって、」
＿＿どんな方なんですか。
興味本位と言ってしまえば、それまでのこと。
でも、少し遠く思っていた花綺更さんの、“兄がいる”という共通点で結ばれたと思ったから。
(仲良くなりたい、話がしたい、そう思っただけ)
なのに、その続きを聞くことはこの先無いんだろう、と勝手に知らされる。
「もし一星充くん＿＿自分のお兄さんにどんなことがあっても、君はお兄さんの味方でいられる自信はあるの」
ドームのガラス、なだらかな曲線を指で撫でながら、それは残酷に告げられた。
簡単にパリンと割られてしまうんじゃないか、と錯覚するくらい。
迷いがなくて、それでいて感情のこもらない指先。
「それって、どういう……兄に、兄ちゃんに、何かあったんですか」
ガラス1枚に隔てられた花は、そんなことも知らずに凛と咲き誇るだけ。
「君の返答によって、ここからの話は変わる。強制したりも、催促したりもしないから。どうか、本当の気持ちを教えてくれないかな」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
