episode55 Side S ページ8
「試合には勝った、心配するな。……大丈夫か」
「ありがとうございます」
「大丈夫か、に対してのそれはやめてくれ」
「ごめんなさい、それ鬼道先輩にも似たようなことを言われました。でも正直、大丈夫ではないので」
目と足を抑え、胎児のように丸めた体が担架で医務室へ運ばれた時は、生きた心地さえもしなかった。そこから更に駄目押しと言わんばかりに、けろりと呟いた。
「大丈夫ではないって」
「今”大丈夫”って言って、信じられますか」
「それはそうだが」
しかし失っていた意識も今は戻っている、目にも酷くダメージを受けた様子では無さそうだ。その事実に、喉の奥で詰まっていた憂心をほんの僅か、欠片程だけ吐き出す。
それでも、所詮欠片は欠片でしかない。
医務室のベッドに寝そべるその姿は、退屈そうに流れる時間を持て余しているようでありながら、寂しそうに流れてしまった時間を惜しんでいるようで。
「……かわせなかったのか、あんたの目でも」
足首を握るようにして隠した掌を見つめながら、ようやくの思いでそう問う。
担架に乗せられた先程と同じように、ベッドの上にいる今も足を抱えて丸まるような体勢。自分を必死に守ろうとする心理の現れだろうか。
「やっぱり西蔭さんって、私の目にだけは期待してくれているんですね」
「後半からも出るなんて止めるべきだった。すまない、俺の責任だ」
「謝ったりなんてしないで、いつも通り”あんたは馬鹿だ、あまり手を掛けさせるな”って言って下さい」
Aのことも守ってやれなかった。そして野坂さんにAのことを任されていたと言うのに、その責任さえも果たせやしなかった。
全身も思考も、全て沈み込めるように二重に重なった自己嫌悪。
「そんな辛そうな顔しないで下さい。もし私の体調が万全でも＿＿ううん、むしろいつもの調子だったら、逆にあの場から何とか逃れようと動いていたのかな。その結果、やられていたのは足じゃなくて目でした」
今抱えた苦しみには、誰も触れて欲しくない。
なのにAはそれを上手く察してはくれないのか、それとも見透かした上なのか。
その痛みへと触れようと、Aは奥深くへ潜るように息を充分に継ぐ。
「”何故かわせなかったのか”。西蔭さんはそう聞きましたが、違います。
悲しいくらいに自虐に歪んだ表情で、手を離したそこにあったのは＿＿拍子抜けするくらいの軽い怪我でしかなかった。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» はじめまして、コメントありがとうございます！のんびりですがこれからも更新頑張りますので、よろしくお願いします！ (2020年3月10日 21時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続きが気になり過ぎて待ちどうしいです。これからも頑張ってください。 (2020年3月10日 15時) (レス) id: b69d3c39c6 (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭〜すずらん〜(プロフ) - 始めまして。麗乙女のゆううつのパスワードを教えてもらいたいです！ (2020年2月3日 16時) (レス) id: b5347077cc (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 匿名さん» 初めまして。展開は決まっているのですが、野坂さんと花綺更ちゃん、頭脳派という設定の 2名のやりとりをどのようにまとめるかで長く手こずってしまい…！なので体調は万全です！ご心配お掛けして申し訳ありません。これからも楽しんで頂ける作品を目指して頑張ります！ (2019年12月10日 0時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 初めまして。以前から楽しく拝見させていただいております。しばらく更新が無かったので体調を崩されているのかと心配しておりました…。花綺更さんと野坂さんの今後をハラハラかつワクワクと今後も楽しみにしております…！ (2019年12月8日 5時) (レス) id: dfef9e7ff2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2019年10月6日 8時
