「恋」っていうから「愛」に来た【鬼滅の刃】

ブサイク。 ページ12

我妻「えっとさ…」

炭治郎にケバいと言われてから

彼女はまるでガラス細工になってしまったかのような瞳で

ただ、好きな人の背中を見つめていた

キリ、キリリ、と鳴らされる心のおとは

好きな人に踏まれて砕けたものである

今日の朝の期待が、自分の淡い自惚れが

彼女自身を深く、深く傷つけてしまう

昨日の夜、あんなに楽しみで寝れなかったのに。

今日、家中を走り回って引っ張りだした簪なのに

化粧だってこの日のために何回も練習してきたのに

それだけじゃない

好物が出されても断ったのに。

夜、お腹が空いて寝付けなくても我慢したのに。

あんなにたくさん、泣いたのに。

のに、のに、と繰り返された記憶が

さらに彼女を傷つけて、傷を広げてしまう

泣きわめく、絶対ワガママを言う

そう判断した善逸は困ったように笑みを浮かべたのだが。

『う…うぅ…』

静かに、静かに、嗚咽を漏らしながら

しおしおと、その瞳から涙を流すのだから

善逸は驚いて思わず声を荒げてしまった

我妻「その泣き声やめてくれる！？！？超聴いてて辛いんだけど！！？？」

『うるさい……』

我妻「だからいつもみたいに泣きわめけよ！！」

『うるさい………』

綺麗な裾は見ただけでよく分かる

大事に大事に保管されていた

まさに勝負服というところだろう

善逸も始めに見たときに

見事に彼女の美貌を引き立てるような

美しく清廉な柄だなと思ったのだ

もちろん、その服が安っぽいはずもなくて

明らかに他の女の着物とは違う慎ましさがあった

我妻「あぁ！！服が汚れるから！！もういい加減やめなって！！！」

『ううぅ…！』

しかし流れる涙を覆い隠そうとして

必死に袖で頰をこするものだから

綺麗な質の袖には塩辛い涙と

その涙によって落ちてしまった化粧が相まって

乱雑に絵の具をこぼされたようになってしまった

それでも涙は止まらず

さらに拍車をかけて彼女を惨めったらしくするものだから

ついには恥ずかしさも感じた

周りの目線が痛く感じたからか

彼女の心はさらにきぅきぅと鳴き声をあげる

逃げ出したい、消えたい、と

ワガママお嬢様は始めて思った

我妻「た…炭治郎は田舎育ちだから！きっと薄化粧が好きなんだよ！！だから、大丈夫！！うん！多分、きっと」

そんなお嬢様の姿をみて

ずくずくと良心が痛んだ善逸が

咄嗟に嘘も何もないようなことを言う

『私は、どうせブサイクなのよ…！！』

しかし、お嬢様の涙は止まらなかった

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