「恋」っていうから「愛」に来た【鬼滅の刃】

器量は当座の花 ページ2

『うぅ…最悪よ！！最悪！最悪！！！！』

「お嬢様…」

『うるさい！！』

ある女が人通りの多い道で

恥もなく泣き散らかしていた

その瞳は牡丹のようにいじらしく

また淑やかな微笑みをもっていたのだが

こうも必死に涙を流しているともなると

その美しさもゼロに等しい

泣き散らかす姿はあまりにも幼いし

まるで駄々をこねているように思えて

彼女に話しかける人はいなかった

そんな美女が噂になるはずない

泣き始めて30分が経過したくらいに

急いで家政婦が迎えにきたのだ

女が泣いている

綺麗な黒髪に美しい目をもつ女だ

かわいそうに、振られたのね

それよりみたかよ、あの頰

そうね、真っ赤な跡がついていたわ。

紅葉みたいにね

「お嬢様、場所を変えてはいかがですか？」

『いやよ！こうして泣いていたら炭治郎が戻ってきてくれるかもしれないじゃない！』

「お嬢様、その可能性は…」

お嬢様、と呼ばれた女の顔はたしかに酷かった

真っ白な肌は怪我を知らないくせに

真っ赤に色づく手のひらの跡が痛々しい

それよりも痛い、辛い、最悪、と

泣きわめくお嬢様の声がつらくて、いたくて。

顔も失恋した後からか歪んでいて

その瞳の輝きも失われていた

ただ涙を流すのみである

『なんで！？何がダメなのよ…！』

「お嬢様、失礼ながら今に始まったことではないのではないでしょうか」

『うぅ…』

手ぬぐいで必死に涙を拭うと

悲しさで歪んだ顔の内側から

ぽろ、ぼろり、と純情が溢れてきた

それはきらきらと尖って見えたけれど

実際は優しくて、柔らかくて、甘酸っぱい。

「とりあえず家に…」




『もういやよ！あんな男こっちから願い下げだわ！』

家に着いたとしても彼女の苛立ちと悲しみは消えなかった

この街のお嬢様として大層可愛がられてきたお人。

街を歩けばどこもかしこも彼女をもてなし

男も女も彼女にだけは甘かった

そんなものだから彼女の思い通りにいかないことはなかったのだ

だから、まぁ、立派なワガママ娘に育ってしまった

嫌だ、嫌だと駄々をこねる姿は幼い子供のようだが

それもまた愛嬌があるから恐ろしい

実際に可愛らしく、美しいお方なのだ

こうなってしまったのも

避けられなかったことなのかもしれない

そんな彼女が始めて思い通りにならなかったもの

どうしても手に入れられなかったもの

それが彼女にビンタをかました

彼女にだけ超絶塩対応の

竈門炭治郎という男である

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