とある日常の甘味 ページ5
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「 疲れたわ!コーヒーを一杯 」
「 ……二時間か。まあ頑張った方かな 」
定期考査前二週間の金曜日、放課後のこと。
甘いものが食べたくなった俺は、校内のカフェエリアに立ち寄った。
俺がここで頼むものといえばザッハトルテだ……甘さの中にある仄かな苦味がたまらない。
手早く注文を済ませ、コーヒーとトルテを受け取った。勉強をする人、読書をする人などで座席は賑わっている。
空いた席を探そうと辺りを見渡すと、美味しそうにショートケーキを頬張るトキを見つけて俺は声をかける。
「 美味そうに食べるね。隣、座ってもいい? 」
返事を待たずに手前のイスに腰掛けた。
案の定、えん君!と目を輝かせ 嬉しそうにトキは頷く。
それにしても、一人でトキがこんな所にいるとは珍しい。
こういうものは 同じクラスの女の子と食べるものではないのだろうか――俺も一人で食べに来ているということには突っ込んではいけない――。
そう思った俺がそのまま訊ねると、たまには一人でじっくり味わいたくて、と笑った。
こうして二人で話すのも久々だ。
学年が違うからというのも大きいのだろうが、前回二人だけで会話したのは先月の勉強会……どうしても条件付き確率が理解できない、と泣きついてきた時だった記憶がある。
そういえば、今回のテストはどうなのだろう?
「 トキ、今勉強はどんな感じ?分からないところ、ある? 」
そう尋ねるなり、びくりと肩を震わせるトキ――これは、まあそういうことだろう。はぁ、と大きくため息をついた。
目を右斜め下に下ろし、実はぁ……と鞄から取り出してきたのは化学の小テスト。
名前の横に堂々と書かれているのは、五十分の十五の文字。
思わず頭を抱えた。
「 え、えん君!助けてください! 」
まあ断る理由もなく、教科書を開きつつ 昔の記憶を頼りに記号と文字を綴っていくこと二時間……そして冒頭のセリフに至る。
半年ほど前、ダンスホールで踊っていた俺とベティが目をつけられてから随分と仲良くなったもので。
既に両手では数えきれない程に開催された勉強会では トキが コーヒーを一杯、と言うのが終わりの合図になってしまった。
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かいむ(プロフ) - kohakuさん» こちらこそありがとうございます〜!素敵に書けていたのなら何よりです(´∀`) (2020年11月24日 1時) (レス) id: ef482f72f1 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - トキの珈琲好きを拾って頂き有難うございます!素敵な1杯でした! (2020年11月23日 16時) (レス) id: d6f223475b (このIDを非表示/違反報告)
かいむ(プロフ) - 紙絵師さん» 良かったです〜!こちらこそありがとうございました(´∀`) (2020年11月23日 12時) (レス) id: ef482f72f1 (このIDを非表示/違反報告)
紙絵師(プロフ) - ちょ〜いいっす最高っす…!あざます! (2020年11月23日 11時) (レス) id: b43ef54b2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かいむ | 作成日時:2020年11月22日 14時