Moca izw ページ1
毎週土曜日、きまって訪れる小さな喫茶店。3席しかないカウンターでマスターとお話しながら飲むコーヒーが週の疲れを癒してくれる。
今日は木曜日。たまたま仕事がお休みで、することもなくふらっと喫茶店に足を運んだ。ドアを開けるなり、マスターが笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃい、今日はお仕事お休み?」
「そうなんです」
いつも通り左端の席に座ろうとすると、先客がいた。新聞を読んでいる、少し年上に見える男の人。
「あぁ、Aちゃんのいつもの席、伊沢くんと同じだもんね。土曜は空いてるんだけど」
マスターのその言葉に、伊沢くん、と呼ばれた男性が顔を上げる。私に少し笑って会釈したその顔に、胸がぎゅっと締まるような初めての感覚を覚えた。
3席しかないカウンター。1つ間を空けて座るのもどうかと躊躇っていると、伊沢さんがぽんぽんと真ん中の席を叩いた。
「Aさん、で合ってますか?隣、もし嫌じゃなかったらどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
「僕、伊沢っていいます。よくここには来るんですか?」
「はい、だいたい毎週土曜日に来るんですけど、今日はたまたま仕事が休みで」
伊沢さんの気さくな雰囲気と、マスターが何も言わなくても淹れてくれる私の好きなコーヒーの香りに、緊張がほぐれていく。
世間話をしていると、マスターが私の前にコーヒーを置いた。いつものモカの味が口いっぱいに広がる1口目は、永遠に味わっていたいほどの幸せな瞬間だ。
コーヒーを置いてふと隣を見ると、伊沢さんとマスターが目を合わせて笑っていた。
「何かありましたか…?」
「いや、美味しそうな顔して飲むなって。マスターが前言ってたんですよ。コーヒー好きは1口目の表情で分かるって体現するような子がいるって」
「マスター!!恥ずかしいじゃないですか」
軽く睨むとマスターはぺろっと舌を出した。いい歳したおじさんなのに、なんだか可愛い。
「今の表情見て、Aさんのことだって一発で分かりました」
「そんな顔してました?」
「あっ誤解しないでください、すっごく可愛かったんで大丈夫ですよ」
さっき初めて見た時と同じように胸が締まる感覚がする。褒められる耐性のない私は口をパクパクさせていた。
「伊沢くん、言うねぇ〜。ピュアなAちゃんが真っ赤になっちゃったよ」
からかうマスターをもう一度睨むと、コーヒーの湯気越しに伊沢さんが目を細めて笑う。その笑顔に、一目惚れだと気付いた。
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カルボン(プロフ) - ぶっく。さん» 正直言うと、須貝さんあたりで「あれ、あと二つもいけるか?」ってなっていましたが、頑張りました!(笑)ぶっくさんもさいかいからあい完結おめでとうございます。楽しみに読んでおりました! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - はるむににさん» 無事完結しましたー!!今まで私の書くこうちゃんはだいたいヘタレだったので、今回は趣向を変えて。。「大人になったんだね」っていう言葉から着想しました! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - フェレットさん» 今作も毎日コメントありがとうございました!!本当に支えられております。次作も是非!よろしくお願いしますね! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - まず喫茶店テーマで7作品もこんなに綺麗に書けるカルボンさん、めちゃくちゃすごいです…!どの話もふたりの距離感がなんだか優しくて大好きです。これからも応援しています! (2020年3月30日 23時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
フェレット(プロフ) - かっこ良いこうちゃんは大好きです!次回も楽しみにしてます! (2020年3月30日 12時) (レス) id: 88923771a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カルボン | 作者ホームページ:
作成日時:2020年3月20日 0時