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110.手遅れ by I / 死を、想う ページ15




俺は、ようやく気がついた。
今度こそ、取り返しが付かなくなってしまったのだと。


この間、ゆうくんの話について罪状を並べ立てられたとき。俺は、あれが決定的に亀裂が入った瞬間と思っていた。
だが、あれはまだ軽傷だった。実際、Aは『Knights』のレッスンもすっぽかしたりせず、むしろ真摯に向き合おうとしていた。



――でも。

今、その目は俺じゃなく、長年怯えてきたものを見ていて。


くまくん曰く「世界一他人を嫌わない」Aが、明らかに「嫌だ」と口にした。
くまくん曰く「世界一他人を責めない」Aが、俺の行動を否定する発言をした。

その時点で、気付くべきだったのに。




なんて馬鹿なことをしたのだろう、俺は。

なんて酷いことをしたのだろう、俺は。



そもそも『___』と重ね合わせていた時点で、間違っていたんだ。うっかり『___』って言いかけて、とっさに似た語に修正した。

だって、俺は『過去に執着しない』。『過去に執着してはいけない』から。そういうはず、だったのに……。




逃げるように立ち去るAを、俺は追いかけなかった。追いかけることが、できなかった。俺には、そんな資格は無かった。……だけど。


ああ。なんで。どうして。




「俺は、こんなにも愛してるはずなのに……!」




〜〜〜〜




その場を離れ、手の震えが収まるのを待つ。
ふと後方を振り仰ぐと、泉先輩が、近くの練習室の鍵を開けるところだった。それを私は、遠くからぼんやりと眺めていた。



……ん?

中に、人が見えたような……。




−−−−




……もう、帰ろうかな。



泉先輩と仲直りするはずが、余計にこじれちゃったし。
後日、またちゃんと謝ろう。


……怖かった。
恐怖で卒倒できるものなら、したかった。


体か心かは知らないが、昔から基本構造が頑丈なのか、私は『壊れること』ができなかった。死にたくて辛くて仕方ない時も、頭痛を除けば体に目立った異常は出なかった。


そのせいで、誰も私を助けてはくれなかった。
いっそ壊れて狂って暴れた方が、きっと早く楽になれた。


教室から取ってきた通学バッグ(K高でも使ってたリュック)を下ろし、噴水の縁に座る。


この世の全ては、観測されない限り存在しないのと同じ。
見向きもされない私は、救いの手も、明確な愛情も、もらえなかった。

残ったのは、いつ明けるかもわからない、暗い夜だ。


「もういっそ、私なんてどこかの池か川に落ちて、死ん――」





バッシャアアアァン!!




  ゴボゴボゴボ―――

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Mashiro Lio(プロフ) - 迷えるJK〜dark side moon〜さん» 簡単な方(ただし難しい方と同レベル)に2年の終わり頃決めました。私の「やりたい事」と職業は無関係ですが、高収入は資金調達に必須ではあるので。描写は現実味に拘っているので、そのお言葉嬉しい限りです!今後も本作をよろしくお願い致します。長文失礼致しました。 (2021年3月23日 12時) (レス) id: 3124529ae6 (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 迷えるJK〜dark side moon〜さん» そう言ってくださってとても嬉しいです!大学につきましては私の場合、当初やりたい事が無かったので「国家資格を取れる、かつ狙える中で最も高所得を得うる所」で決めました。2つ選択肢があり、ギリギリ難しい方を目指すか確実にもう一方で受かるか迷いましたが結局、 (2021年3月23日 12時) (レス) id: 3124529ae6 (このIDを非表示/違反報告)
迷えるJK〜dark side moon〜 - (追加)いつも小説の高校生の描写などが素晴らしく、きっとMashiroLio先生は賢い方なのだろうなぁ、と思って質問させていただいた次第です。お話にも関係のない話ですし、迷惑でしたら無視してくださって構いません。 (2021年3月23日 11時) (レス) id: ffd50faadb (このIDを非表示/違反報告)
迷えるJK〜dark side moon〜 - はじめまして!いつも小説楽しみにしてます^^私、MashiroLio先生の考え方に憧れていて、将来代替え出来ない人になりたく、次高3で進路(大学)選びに迷っているんですが、先生はどうやって決めましたか?もしよろしければ学びの方面など教えていただきたいです! (2021年3月23日 11時) (レス) id: ffd50faadb (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - Mashiro Lioさん» 迷惑になりそうだと思いコメントを削除した瞬間に返答がきたので、驚いてしまいました……。ある意味ではタイミングがバッチリですね(笑)もし貴方様がお暇な時は、ぜひボードにいらしてください♪好きな時間に書き込んでくださいね! (2020年10月17日 16時) (レス) id: ead3d047d6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Mashiro Lio | 作者ホームページ:http  
作成日時:2020年2月29日 11時

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