059:泣きそうになる (haruka) ページ10
先に帰ってなんて、変なﾕﾉ。
今日は朝からずっとおかしいけど。
まぁ、でもﾕﾉはそういう人だ。
彼の世間一般的な印象といえば
真っ直ぐで
強くて
誠実で
優しくて、と
ポジティブなイメージであり、
確かにそのどれも本当の彼の姿なのだけど。
時々 今日みたいに
理解不能な彼のもう一つの顔を見せるから
きっと私はﾕﾉの隣にいるだけで
何だか楽しくなったりもするのだ。
「おかえりなさいませ、お手紙をお預かりしております」
「手紙？…ありがとうございます」
フロントで渡されたのは
宛先も差出人もない、真っ白な封筒だった。
私は特に不思議に思う事なく
エレベーターへ向かって歩き出した。
ふと、大きなショウウィンドウに飾られた
美しい純白のドレスが目に留まった。
「…綺麗」
引き寄せられるように近づくと
それが オーダードレスの専門店だと分かった。
そうだった。
春には結婚式を挙げるのだから
そろそろこういうのもチェックしなきゃいけないのかもしれない。
現実を前にしても
私の中で 最悪の思い出が
つい 頭を擡げて襲ってくる。
ﾕﾉは私を一人にしないと
これほど理解できているのに。
「綺麗だね」
「ﾕﾉ…！」
「着てみる…？」
「こんな素敵なドレス…似合わないって」
「そうかな？似合うと思うけど」
「ところで、どこに行ってたの？」
「ナイショ」
普段そんな事しないのに
私の手を取って歩き出すから
照れ臭くて早足になってしまう。
誰かに見られてる気がするのは
きっと ドキドキしてるからだ。
部屋に入ると 無数の柔らかな灯に包まれた。
いつ用意してくれたんだろう。
優しいキャンドルと
淡いサーモンピンクの薔薇の花
驚き過ぎて ボーっと立ち尽くしているだけの私の隣
「急だったからまだ指輪用意できてないけど」
「…」
「俺たち、春には夫婦になるんだよね」
「…」
「多分、その日が来るまで遥はトラウマから抜け出せないんだろうなぁ」
「…」
「できるなら、代わってあげたい」
「…ﾕﾉ」
「俺が全部背負ってあげたい」
「…」
「俺が、全部持つよ」
ﾕﾉが切ない顔で笑うから
ﾕﾉへの想いが あまりに大き過ぎて
泣きそうになる。
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作成日時：2017年11月6日 23時
