All of me.Vol:2 (ページ26)

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075:見えない影 YN ページ26

「女性と？」
「はい。女性と話していたらしいんですが…」
「で…その人は？」
「あの…その、ﾕﾉさんの、奥様…で、いいんですよね？……とにかく奥様が倒れた時にはもう…」
「…おくさま……」
「あれ、違いましたか？」
「おく…さま…」
「ﾕﾉさん？」
「ああああすみません！はい！奥様でいいです、はい、もうすぐそうなるので！あはは！何か照れますけど！」
「あの…」
「ああ、はい、すみません」

いかん…

突然の奥様砲にやられそうになった。

とにかく、俺は知り合いの知り合いの知り合いぐらいのツテを辿って

遥が倒れた時駆け付けてくれた、福岡の空港スタッフと話す事ができた。

「その女性の後姿でも見てないですか？」
「チラっと見たぐらいですが、まるでモデルみたいなスタイルの方でした」
「モデル…」
「それに、日本人だと思います」
「どうして分かったんですか？」
「歩き方というか、雰囲気というか…」

ツアー中の3カ月で、何とか事を解決したいと思った俺は、それまで自宅には戻らないと決心した。

ﾁｬﾝﾐﾝに話したら、遥のためにもやめろよって反対するだろう。

だけど、今遥の穏やかな暮らしを壊すわけにはいかない。

きっと、この決断が遥を守るための一番の方法だ。

「僕が憶えているのはこれくらいですが…こんなご馳走頂いちゃって…」
「すごく助かりました。遠慮せずいっぱい食べて、時間が許す限りこの国を満喫して下さいね！」
「なんか申し訳ないです…はい」

遠慮がちに頭を下げる素直な青年を見て

何だか清々しい気分になる。

その場はマネージャーに任せて

俺は店を出た。

「モデル…日本人」

その女が絡んでるとしたら

CAのﾐﾅとはどうやって知り合ったんだ。

謎は深まるばかりだ。

こうして動ける時間は限られている。

少しでも解決の手がかりになるなら

持っているもの全部使ってでも

遥の笑顔を守りたい。

離れていた7年を思うと

たった3カ月ぐらいどうにでもなる。

乗り越えられないわけない。

そう思っていた俺の知らないところで

遥が少しずつ壊れていくなんて

その時は知る由もなかった。

見えない影は

俺たちのすぐそばまで

手の届くところまで

近づいていた。