067:もう一人の私 ページ18
私はなぜここにいるのだろう。
ふと、周りを見ると
すぐにこれが夢だと気付いた。
だって私は 今東京にいるはずなに
ここは福岡の空港で、
しかも、行き交う人がみな半袖を着ているからだ。
大きな窓の外
夕方の空に見えた飛行機。
一つ前の席に座る女性が
飛行機をじっと見つめている。
不思議な事に
それが自分だと気付いた時
懐かしい気分になった。
これが過去の私なら
すぐにでも頭が割れそうになるほどの痛みが襲ってくるはずなのに
そんな気配もなくて
ただ、この穏やかな時間に溶け込んでいる。
「Aさんですか？」
後ろからその声が聴こえた時
心臓が 飛び跳ねそうだった。
ゆっくり振り向くと
知らない女の人が立っていた。
とても 焦っているように見えて
胸騒ぎがした。
「大変です、ﾁｬﾝﾐﾝさんが」
「ﾁｬﾝﾐﾝ？」
「とにかく来てください」
もう一人の私の顔が青ざめると同時に
彼女はもう、走り出していた。
慌てて後を追う私に
もう一人の私は気付かない。
この空港にこんな場所があったなんて…
CAが開けた扉の奥は
薄暗い階段室だった。
もう一人の私は
転びそうになりながら
階段を駆け下りる。
私も、転びそうになるけど
うまく走れない夢独特の
もどかしさを感じた。
カツン カツン …
ふと、駆け下りる足音と
もう一つ
別の足音が聞こえた気がした。
ゆっくり 階段を上る音だった。
その時、CAの足が止まった。
「Aさん」
彼女の声はか細くて
少し震えていた。
「あの…ﾁｬﾝﾐﾝは」
もう一人の私が振り返ると同時に
美しい指先が視界に飛び込んだ。
もう一人の私は
まるでその指先に引き摺られるように
宙を舞った。
「…消えて」
冷たい声が聴こえた時
私は もう一人の私と目が合った気がした。
あのCAは ガタガタと全身を震わせながら
階段に崩れ落ちた。
「だれか……だれか…！」
「…大袈裟ね、大丈夫よ」
「Aさんっ！」
「気を失ってるだけ。落ち着いて」
「でも…」
「あなたがやったのよ？」
「私は…！」
「あなたが、彼女をここに連れてきたのよ。幸いここにはカメラもない」
「ひどい…最初からそのつもりで…」
「私がここにいた証拠は残っていない」
冷たい声がこだまする。
私は動けなかった。
もう一人の私は
とうとう置き去りにされたまま
そして 夢は終わった。
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作成日時：2017年11月6日 23時
