All of me. (ページ50)

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049:ｸﾞﾗﾃﾞｰｼｮﾝ　CM ページ50

湖が見えるレストラン

湖面はｷﾗｷﾗと光を放って

夕方の波を淡い色で彩っている。

「…綺麗だね」
「うん」

Aは食い入る様に

ユラユラと揺れる波を見つめている。

ゆったりと流れる時間

長旅の疲れが少しずつ癒されていくようだ。

「お祝いだからって言われたの」
「…お祝い？」
「うん…さっきのキャンドルのお店のお姉さんに」
「お祝い…どういう意味だろ？」
「分らないけど…もしかしたら私を知っているのかもしれない」

僕が兵役に就いているいる間

Aは一人で旅に出た。

その旅の全部を僕はまだ聞いていないけど

留学の思い出を辿ってこの街を訪れたとしてもおかしくないのだ。

「A」
「ん？」
「…思い出したいと思う？」
「え…」
「ここにる間は…記憶事は忘れて、楽しもう」
「…」
「まぁ…他人に等しい今の僕と…楽しむのは難しいもしれないけど」
「…」
「僕の事は…放っておいてもいいから」

本心から出た言葉だったけど

Aは戸惑っていた。

気まずい沈黙に包みこまれそうになった時

ちょうどﾀｲﾐﾝｸﾞよく料理が運ばれてきた。

丁寧に置かれた鉄板の上

美味しそうなステーキ肉の香りが立ち昇る。

ふとAの方を見ると

ぼーっと僕の方を見ていた。

「どうした…？」
「…ｸﾞﾗﾃﾞｰｼｮﾝ」
「A？」
「…夜になる前の空のｸﾞﾗﾃﾞｰｼｮﾝみたいな人」
「え…」

痛い…

Aはそう言って頭を抱え込みながら

苦しそうに顔を歪めた。

「A!」

慌てふためく僕に気付いたお店のスタッフが数人集まってきて

すぐに救急車を手配すると言ってくれたけど

すぐに落ち着きます…

Aは弱々しい声でそれを断った。

僕たちは、ゆったりとしたｶｳﾁが置かれている個室へと運ばれた。

ここはVIPルームなのだろう。

さっきより近くに見える波

真っ青だったAの顔は少しずつ色を取り戻してきている。

「お料理こちらに運びますね」
「あの…」
「奥様の体調が良くなるまでゆっくりなさってくださいね」
「あ…りがとうございます」

ﾁｬﾝﾐﾝ、冷めないうちに食べて？

私、もう大丈夫だから。

僕に心配をかけさせまいと

必死に笑顔を作ろうとするAを見た瞬間

咄嗟に抱きしめていた。