All of me. (ページ23)

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022:Re:Start. ページ23

「くれぐれも無理をさせないようにしてください」
「はい」
「記憶は思わぬところで蘇る場合もあります。逆に全く蘇らない事も。どうか見守ってあげてください」
「はい…分かりました」
「Aさん、無理せずにゆっくりでいいですからね」

隣で

真剣な顔で先生の話を聞いているこの人は

私の婚約者らしい。

目覚めたら頭の中が真っ白だった。

自分の声も鏡に映る顔も

Aという名前すら

何一つ自分ではない気分だ。

だったら私は何者だろう…??

「A、先生の話ちゃんと聞いてる？」
「あ、すみません」
「先生すみません、帰って僕から話します」

退院の日

[ﾁｬﾝﾐﾝ]は一人で私を迎えに来た。

慣れた手つきで私の荷物をまとめて

はい、と私に手渡したのは

私が愛用していたというｽﾏﾎらしい。

こっそり写真フォルダを開いたら

2人の写真で溢れていた。

「お腹減ってない？」
「…いえ」
「今朝市場でAの好きな果物買ってきたよ」
「…ありがとうございます」
「もうすぐ着くよ」

肌寒い色をした空

さっきから、まるで城壁のように連なるレンガの塀

一体どこまで続くのだろう。

彼がハンドル近くの一つのボタンを押したら

ﾋﾟｯと音がして

目の前の重厚な門がゆっくりと開いた。

「ここは…いったい…」
「Aと僕の家です」
「…うそでしょ」

まるで施設だ…

目の前に大きな建物が見えて

玄関と思われる場所に

白いマルチーズを抱っこした

若い女の人が見えた。

「あの人は…」
「ｿﾕﾝと言って、僕が留守の間ｼﾞｮｾﾌを見ていてくれてます」
「ｼﾞｮｾﾌ…？」
「変な名前だろ？Aが付けたんだけどね」
「え」

ｿﾕﾝという女性は

にこやかに笑って

私に握手を求めた。

「Aさん、おかえりなさい」
「…どうも」
「ｵｯﾊﾟ、良かったですね」

とても人の好さそうな笑顔で

何だか照れ臭くなってしまう。

足元にじゃれつくｼﾞｮｾﾌ

彼も私の帰りを待っていてくれたのだろうか。

嬉しそうに尻尾を振って

ぴょんぴょん跳ねている。

「Aが落ち着くまでの間、ｿﾕﾝにはまだ来てもらうから」
「…すみません」

私を見る[ﾁｬﾝﾐﾝ]の顔は

とても優しいけれど

写真の中の私たちのような

そんな過去は

一つも思い出せそうになくて

申し訳ない気持ちだけが

胸いっぱいに押し寄せる。